2013.11.01
医療材料の公定価格を決定する、厚生労働省の審議会「中央社会保険医療協議会」(中医協)では、ペースメーカー、心臓手術用カテーテル、植込型除細動器などの国内価格が欧米に比べて高いと指摘されており、次期診療報酬改定での価格引下げ圧力が強まっています。内外価格差といわれるこの問題、是正に向けての制度変更は間違いないのですが、論点は程度問題。
医療機器業界は欧米に比べ、日本がコスト高になっているためと釈明し、①急性期病院が乱立し、欧米と比べ疾病の集約が進んでいない②流通企業の再編が進まず、製品の適正使用にかかるコストが膨大-ということを主な理由に挙げています。ただ中医協の意見陳述の場面で、この問題の当事者でもある流通業界は、自らのプレゼン以外に口を開くことはなく、委員からの関連質問には、医療機器メーカーが回答する始末でした。
●医療の機能分化には限界 中医協委員もコスト高に一定の理解
日本の病院は、民間の医療法人がその多くを占めているため、強制的に機能分化させるということは難しく、国が出来ることは診療報酬による経済誘導ぐらいしかありません。それでも、看護師配置7対1の入院基本料を算定する病床が35万床を超えて偏在するなど、経済誘導すら上手く機能していないのが現状です。そのため、前述の①については、医療機器業界の主張に一定の説得力があるといえます。中医協の席でも、保険者団体の委員が「フリーアクセスの行き過ぎで、症例数の少ない病院に広く薄く流通させなければならない。内外価格差問題は国内で色々な改善を進めるべき」と同調するほどでした。
●細分化する材料・機器の流通 再編は難しい
一方、②についてはどうでしょうか。企業レベルで見ると、同じ公的医療保険制度で活躍する医薬品では、全国卸が誕生するなど自主的に集約化を進めましたが、医療機器(材料)では、エリア毎に卸が乱立するなど、思うように再編は進んでいません。これはアイテム数が数十万と膨大で、領域も細分化されているといわれる特殊性も、流通業界の再編を難しくする一因と考えられていますが、それでも流通業界は集約化に努めなければなりません。
●業界特有の流通慣行が、業者が口を閉ざす理由か
また医療機器(材料)の流通では、医薬品を含む他業界では見られない、「貸出し」「立会い」という古い取引慣行もあります。一昔前、製品購入を前提とした医療機関への、無料での貸出しや、操作方法の説明や、医療従事者の代わりに製品を操作するといった、手術室での立会いが無秩序に横行していたといいます。今でこそ、一定のルール下で、貸出し、立会いが行われているといわれますが、全て公明正大に行われているかというと、疑問符が付く事も事実です。貸出し、立会いが、ある側面で機器・材料の適正使用に貢献していることは事実でしょうが、流通業者はこうした慣行に、再びスポットを当てたくないという思いが強いのでしょう。そのため、流通業界が、中医協の場で口を開かないのではないかと、私は考えてしまうのです。
●公的制度下でのプレーヤーとして、説明責任果たすべき
日本は少子高齢化が進展し、医療保険財政も厳しさを増しているため、中医協での議論もエビデンスベースで進められています。そうした中で、流通業界が口を閉ざしたままでは、あるべき制度改正にはつながりません。このままでは流通業界自体の地盤沈下につながるだけでなく、税金や保険料を事業収入の原資としている企業としての責任を果たしているとはいえません。メーカーとユーザーに挟まれた苦しい立場で、自己主張が憚られることもあるでしょうが、公的保険制度下で活躍するプレーヤーのひとりとして、積極的に意見を発信すべきでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】