2014.05.01
政府が、医療機器、医薬品をはじめとする健康関連産業を、日本経済の牽引役とすべく、各種の規制緩和策、成長戦略策を打ち出してきたことは、このコラムで紹介してきました。たとえば、医薬品一辺倒の規制から脱却し、医療機器の特性を踏まえた規制に見直す薬事法改正。このような健康関連産業の育成に向けた規制緩和は、産業の成長につながると、私自身も大きな期待を寄せていました。ただ最近、政府が打ち出したある提案には、少し首を傾げざるをえません。
●困難な病気と戦う患者に対する規制緩和を 安倍首相
その提案とは、いわゆる混合診療の拡大です。日本では、公的保険で認められた診療と保険外の診療とを併用する、いわゆる混合診療を、原則として禁止しています。混合診療を実施する場合には、公的保険の適用を認めず、患者にかかった治療費の100%負担を求めています。ただ例外として、将来の保険診療を視野に、有効性・安全性を検証する医療技術などについて、保険診療との併用を認める「保険外併用療養制度」が存在します。
保険外併用療養制度で、保険診療との併用が認められるのは、先に述べた、実施医療機関などを限定し、将来の保険適用を見据えて安全性・有効性を検証する先進医療(4月1日現在、96技術)と、200床以上の大病院への紹介状のない外来受診や、個室などの差額ベッド代などです。
政府の規制改革会議は、これ以外に、医師と患者が相談して選択した保険未収載の医療技術も、保険診療との併用を認めてはどうかと提案しました。政府の「経済財政諮問会議」と「産業競争力会議」の合同会議でも、「困難な病気と戦う患者の方が“未承認”の医薬品等を迅速に使用できるように」との理由をあげて、混合診療拡大を進める方向性が確認されました。
●人道的な対応と成長戦略の両立は困難
確かに日本では、保険診療で治療効果の期待できない難治性疾患を抱える患者が一部存在し、国内未承認の医療技術にすがるといわれます。私自身も、藁をもつかむ思いの患者が存在するのであれば、そうした医療技術へアクセスすることのできる道をつくることに、反対するつもりはありません。ただ、そこで求められるのは、あくまで人道的な対応。未承認の医療技術へのアクセスという人道的な対応と、それをあわよくば成長戦略につなげようという政府の姿勢は、「二兎追うものは、一兎をも得ず」となりかねません。
医療機器や医薬品をはじめとする健康関連産業は、市場経済と社会保障の狭間に存在しています。薬事法改正などは、過剰な規制を緩めることで、産業の成長の足かせを取り払うよい規制改革といえますが、今回の提案は、どうでしょう。規制改革会議も、外部から寄せられた、「医療の素人である患者に医療技術の選択を委ねることで、安全性の疑わしい医療が蔓延する」との懸念を受け、当初の提案を軌道修正しました。今後の議論の推移を注意深く追うしかありませんが、政府には、市場経済と社会保障のバランスをとり、健康関連産業に対する政策立案するよう期待します。
【MEジャーナル 半田 良太】