2014.12.01
“神の手”を持つ医師、手を施せない患者に治療の道を拓く医療機器メーカー。革新的な技術を駆使し、医療に貢献する彼らには、当然、スポットライトがあたります。
しかし、そうした華やかさはないものの、縁の下の力持ちとして医療を支える方々も数多存在します。今回のコラムでは、医療現場で不可欠な役割を果たしているにもかかわらず、なかなか日の目を見ない、医療機器の流通業者の活動を紹介したいと思います。
●「適性使用支援業務」によるコスト分は「妥当」
医療機器流通の業界団体は、「医療に不可欠な役割を、低コストで実現している」と自負。ただそのエビデンスが乏しかったため、団体傘下の企業へ実態調査を実施。今年9月に報告書をとりまとめました。
報告書では、自らの役割について、「モノを売る、運ぶ」という一般的な物流業者としての側面だけでなく、医療機器が手術現場で正しく使われるなど、医療機関の業務に支障を来たさないようサポートする、「適正使用支援業務」が重要と指摘。異業種の流通業者よりも、若干コストが高いのは問題ないとのスタンスを示しています。
●手術室で製品の使い方を説明
医師にとって「より使いやすく」、患者にとって「より安全な」医療機器を開発するため、メーカーは、医療現場のニーズを吸い上げ、製品の改良を繰り返しています。医療機器にはそうした製品特性があるため、急性期から慢性期までの地域医療を一手に支える病院に勤務する医師は、取り扱う症例数が限られるため、使い方のわからない医療機器がどうしても存在します。
そこで医療機器流通業者の「適正使用支援業務」の出番。機器流通業者は、数多の中から適切な製品をセレクトし、求められれば手術室にまで入り、医師に対して製品の適切な使い方を説明するなど、万全なバックアップ体制を敷いています。緊急手術時に、夜間に呼び出されるケースも少なくないそうです。
●在庫管理の業務代行し、廃棄ロスゼロ目指す
また地域医療を支える病院では、症例数が限られるため、自院で在庫廃棄の問題と隣り合わせです。そこで複数の医療機関を顧客に抱える機器流通業者の出番が再びやってきます。機器流通業者は、自分に所有物がある医療機器を医療機関にストックし、在庫管理業務を代行。「富山の置き薬」のように、使った分を補充するイメージですが、手術がなければ医療機器は使われませんので、簡単に使用期限が過ぎてしまいます。期限切れ製品は、当然、所有者である流通業者の負担で処分せざるを得ません。ロス発生を回避するため、機器流通業者は、複数の医療機関を横にらみし、施設間で製品を入れ替えてやりくりし、期限切れによる廃棄ロスを発生させないよう腐心します。これも一般の流通業者にはない「預託在庫管理」と呼ばれる、適性使用支援業務のひとつで、時間と手間のかかる作業となっています。
●重要な役割果たすも、低コストで運営
機器流通業者は、「適正使用支援業務」という、特殊で手間のかかる役割を果たしていることはご理解いただけたと存じます。しかも、これらの業務は、医療機関と取引をしてもらうため、「無料サービス」として提供してきた過去があるため、有料化に切り替えがすすむ現時点でも、比較的低い費用で提供されているそうです。費用の水準が適正かどうかはわかりませんが、少なくとも日本の医療保険制度が、“高福祉低負担”で維持されているのは、機器流通業者のおかげでもあるのです。いつも黒子役に徹している彼らもたまには、優秀な医師や医療機器メーカーと同様、スポットライトを当てて欲しいと願い、今回、取り上げさせてもらいました。
【MEジャーナル 半田 良太】