2015.02.01
団塊の世代の方々が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、医療、介護の需要が膨れ上がります。とくに自宅での看取りを含めた在宅医療は、右肩上がりで需要が増加すると見込まれており、厚生労働省は政策誘導などを通じ、整備を急ピッチで進めています。今回のコラムでは、在宅医療のうち、酸素濃縮器などを用いる「在宅酸素療法」(HOT)の現状と課題について、紹介します。
●患者数は16万人 外出可などQOL向上にも寄与
HOTは、(1)自宅での酸素濃縮器の使用(2)外出時の携帯用酸素ボンベの使用―により、通常呼吸で酸素を取り込めない患者を対象とした治療法。1985年から健康保険の対象となり、自宅での生活や外出などが可能になるなど、患者のQOL向上に寄与してきました。医療機器メーカー(業者)が医療機関と、製品供給・保守契約を締結。医療機関が患者に酸素濃縮器などをレンタルする形で、普及してきました。
日本産業・医療ガス協会の統計によると、HOT患者数は約16万人(2014年7月時点、以下同)に達します。今後、タバコの煙などを要因とする慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増加なども予想され、HOTが必要となる患者もそれに比例して増えると見込まれています。
●実態に即した診療報酬への見直し機運高まる
健康保険が適用されたのは1980年代で、およそ30年前までさかのぼります。その間、HOTに関する患者の年齢構成や生活様式、意識の変化により、保険適用当時に定められた診療報酬を算定するためのルールを、実態に即した形に見直すべきとの機運が高まっています。
●学校やデイケアセンターでの酸素濃縮器2台設置問題が浮上
まず酸素濃縮器について。当時は自宅に1台設置すればこと足りていました。しかし、患者の低年齢化や医療の進歩に伴う長寿命化などが進み、学校や職場、デイケアセンターなどでの2台目需要が旺盛になってきました。具体的には、全患者数の3.6%にあたる約6000人が自宅以外にも酸素濃縮器を設置する2台利用者で、とくにデイケアでの利用が半数程度を占めています。ただ2台利用しても、1台分の診療報酬しか支給されません。だいたい、業者が2台目設置の費用を肩代わりする構図が出来、負担を強いられているといいます。
●酸素ボンベの複数使用のコスト負担が不明確
次に、外出時の携帯用酸素ボンベの使用について。当時は、外出時にカニューレを鼻に装着することに抵抗感があり、1人あたりの携帯用酸素ボンベ使用は少なかったといいます。現在は、患者数の増加や意識の変化により、外出の機会が飛躍的に向上。その結果、1人当たり1ヶ月の携帯用酸素ボンベの使用本数は平均5.2本となりました。しかし、携帯用酸素ボンベを何本使用しても料金が変わらないので、この部分のコスト負担も、実質的には業者が負わねばなりません。
●省エネ化、小型化などの改良を評価する仕組みも必要
さらに、酸素濃縮器や携帯用酸素ボンベの小型化、軽量化、省エネ化などの改良・改善を評価する仕組みもありません。酸素濃縮器を例に取ると、主流の酸素流量1分あたり3リットルの機器で、使用電力量が当時の半分以下となり、あわせて小型・軽量化も実現。これに加え、遠隔モニタリング機能などを搭載していても、旧型製品と同じ診療報酬しか算定できない現状があります。イノベーションを生み出し、患者のQOL向上につながるよう、診療報酬体系を再構築する時期なのかもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】