2016.04.01
古くて新しい問題とされる、医療機器の内外価格差問題。2年に1回の診療報酬改定にあわせて実施される特定保険医療材料制度改革では、保険適用から時間が経過した製品に焦点を当て、外国価格と比べて高止まりしている製品の価格を、これまで以上に引き下げるルールの導入を決めました。これにより、狭窄した冠動脈に留置するベアメタルステントなど、17の機能区分に該当する医療機器の価格が、4月から引き下げられます。
●内外価格差“厳格化” 安倍首相の問題提起が起点
内外価格差の是正は、①新規保険収載時と②市場実勢価格に基づく価格改定時に、特定保険医療材料制度に規定されたルールに沿って実施されます。4月に向けての制度改革でこのルールの見直しがテーマのひとつとなり、厚生労働省がとくに、②に焦点を当て、見直し議論をリードしました。その理由は、安倍晋三首相が、「米国製のペースメーカーやカテーテルは米国価格の2~3倍の価格で買わざるを得ない」として、厚労省に見直しを迫ったためです。
●外国価格比の1.3倍を引き下げが必要な過度な内外価格差と定義
厚労省は、欧米5カ国の平均価格と比べ、1.5倍を超える医療機器を、過度な内外価格差がある製品として、強制的に価格を引き下げるルールを適用してきました。厚労省は、安倍首相の指摘するような2~3倍の価格差は解消しているものの、いくつかの製品群では是正が必要とのスタンスだったため、今回の制度改革で、この比較水準を1.3倍に下げることにしました。
4月からルールを厳格化するものの、ふたを開けてみると、内外価格差の是正対象となるのは、17の機能区分に該当する製品のみ。前回の制度改革では39区分が内外価格差是正のルールに該当していたことを考えると、影響は少ないといえます。
●アベノミクスで内外価格差是正ルールは発動せず
その理由は、アベノミクスによる円安効果です。現在、米ドル、ユーロに比べて、円の価値が下がっているため、円換算した医療機器の価格が相対的に安くなり、結果、内外価格差の是正ルールが発動できない状態になっているのです。業界は胸をなでおろしておりますが、現在の円安がいつまでも続くわけがありません。
逆を言えば、アベノミクス前の1ドル80円程度の時代は、現状では適正価格とされる医療機器でも、価格引き下げの対象となっていた訳で、今回の急激な為替変動を踏まえ、激変緩和措置や、価格引上げルール導入も視野に入れるべきとの意見すらあります。
●公平で安定的な制度設計が不可欠
厚労省が、医療機器の内外価格差の是正に積極的なのは、医療保険財政に貢献するツールが見当たらないため。医薬品は、イノベーティブな新薬の価格を高く設定する一方、その特許が切れると、後発品に置き換わるような仕組みを導入。メリハリをつけた制度設計を敷いています。
医療機器については、医療保険財源を節約できる後発品のようなものが存在しないため、内外価格差是正は切り札的な扱いといっても過言ではありません。ただ、内外価格差是正に政策の舵を切りすぎれば、メーカーが日本以外の国を優先し、国内で最先端の医療機器が迅速に使いづらくなる可能性も浮上します。
先に指摘した急激な為替変動への対策もそうですが、メーカーにとって、安定的で公平な市場環境を提供することも重要です。厚労省には、医療保険財源の節約と魅力的な市場環境の整備という、二律背反する課題に立ち向かうことが求められています。
【MEジャーナル 半田 良太】