2017.05.01
製品が発売された時を頂点に、2年毎に公定価格が下落し続ける―。いわゆる医療機関が購入するモノ代(医薬品、特定保険医療材料の公定価格)のことですが、こうした“原則”を見直す動きが、特材で浮上しています。
厚生労働省は、2018年度の診療報酬改定(保険医療材料制度改革)議論の中で、長期間体内に残しておく特材について、保険収載から一定期間経過後に、良好なデータが示された場合、価格を引き上げるルールを導入してはどうかと提案。医薬品と異なり、膨大なアイテム数をほこる特材が、製造販売承認を取得するための治験などで、十分な症例数を確保しづらく、治療してから一定程度、時間が経たなければ、製品のメリットが明らかにならないという特性に配慮した保険償還制度を模索することになりました。
●生体吸収ステント、生体弁、人工関節などが対象
厚生労働省は、一定期間経過後に、価格見直しの必要があると想定する特材は、冠動脈狭窄を治療する生体吸収性ステントなどとなります。冠動脈狭窄の治療は、開胸手術のほか、狭窄部位を風船で拡げるバルーン治療、金属製の筒で血管を拡げるステント留置術などがあります。とくにステント留置術は、低侵襲で再狭窄を防止できるとして普及しておりますが、一生涯、体内に金属ステントが残存するため、血栓ができやすいという弱点がありましたが、生体吸収性ステントは数年間(現在保険収載されている製品は3年)で、体内で分解・吸収されます。
製造販売承認を取得するための生体吸収性ステントの臨床試験は1年間の成績しかみていないため、厚生労働省は、体内で分解・吸収される3年以上の長期予後を踏まえ、保険収載時の価格が適切だったかを事後的に検証する仕組みを提案したわけです。生体吸収性ステントのほか、僧帽弁置換術に用いる生体弁についても、経年劣化による再手術が回避できるかどうかは、長期間の経過を見なければ判断できないとしています。こうした特材は、人工関節なども該当するでしょう。
●医療機器の特性を踏まえた保険償還制度へ
厚生労働省の提案が断行されれば、保険収載から長期間経過した特材が、従来品よりも良好な治療成績が集まった段階で、企業が、価格引き上げを求めることができるようになるのです。これこそ、医薬品と横並びにできない、特材(医療機器)の特性に配慮した制度改革と言えるでしょう。厚生労働省の審議会(中央社会保険医療協議会)でも、今回の提案に対し、医師を代表する委員からは、方向性に賛同するとの意見が上がりました。
●護送船団からの脱却に期待
医薬品と医療機器は違うと訴え続けた結果、規制面では、薬事法が医薬品医療機器等法(薬機法)に改められ、2014年11月に施行されたのはご承知の通りです。規制面で、一足先に機器の特性を踏まえた法改正が断行され、保険面でも、同様の流れになりつつあることは喜ばしいことです。しかも、今回の見直しは、厚生労働省が、医療機器業界の要求を受け入れて、ほぼその形のまま提案しているのです。
医療機器業界が、日本経済のけん引役と期待されてから、はや5年以上経過しているでしょうか。もうポテンシャルを期待されるだけで、様々なバックアップが得られる時期は過ぎ去りました。少なくとも、医療保険財源の枯渇が叫ばれる中、厳しい目を向ける日本医師会や、保険者団体などの“猛者”を説き伏せるだけの力量が備わっていなければ、海外に打って出て、日本経済をけん引するような成長産業は、夢のまま終わると思います。政府による護送船団方式から脱却するような力強い姿を、見せ続けて欲しいと期待します。
【MEジャーナル 半田 良太】