2017.10.02
一度使ったら廃棄することが義務化されている医療機器(単回使用医療機器=SUD)を再製造する制度が、7月31日に創設されました。国内の医療機関で使用したSUDを、メーカーの責任で回収し、分解・洗浄・消毒・滅菌して再度組立てをすることで、SUDを安全に再利用することを認めるもの。制度創設により、ひっ迫する医療保険財源への貢献、医療廃棄物の削減、医療機関による不完全な洗浄・滅菌を根絶する、という狙いが込められています。
全く新しい取り組みであることから、今回は筆者の私見を述べさせていただきます。
●医療現場では根強い解禁論 厚労省が同調
医療機関からも、再利用しても感染リスクがほとんどなく、単価が高いSUDが存在するとして、十数年来、再利用の解禁を求める声があったことは事実。実際、SUDを勝手に再利用し、法律を犯している医療機関も後を絶ちませんでした。新制度では、メーカーが再製造SUDの「製造販売承認」を取得しなければならない仕組みを採用することで、単純に消毒・滅菌するよりも高い安全性を確保したといえそうです。現時点で再製造が想定される(1)電極カテーテル(2)トロッカー(3)超音波診断用カテーテル (4)腹腔鏡用血管シーリングデバイス―などは、比較的問題にならないだろうといわれていますが、もっと複雑な構造の製品などが再製造されることも否定できず、完全に感染リスクをゼロにできるかどうかもわからないのではないでしょうか。相次ぐ診療報酬マイナス改定で経営状況の厳しい医療機関や、保険財源を預かる厚労省は別にして、患者、国民にとってメリットのある制度といえるのでしょうか。
●再製造品の利用はほぼ「高額療養費」の対象に 経済的メリットは“ほぼゼロ”
再製造SUDは、制度ができたばかりで、製品が登場しておりません。価格算定ルールも決まっていませんが、米国などの諸外国ではオリジナル製品の3割引き程度の価格となっているようです。そこで考えられるのは、医療費の窓口負担が軽減されるのではないか、という経済的メリットではないでしょうか。
しかし、現時点で再製造が想定されている電極カテーテルなどは、単価が非常に高いため、こうした製品を使った手術を受けた場合には、高額療養費制度の対象となるため、新品を使っても、再製造品を使っても、窓口負担はかわらないことがほとんどでしょう。そのうえ、患者、国民は、再製造品を使って手術したことさえ知らされないということです。経済的メリットとして考えられるのは、再製造品を使うことで医療保険財源が軽減され、保険料負担が下がることぐらい。ただ、年間40兆円を超える国民医療費からみると再製造SUDによって軽減される金額は微々たるもの。つまり、目に見えた保険料負担の軽減にはつながらないということです。
●滅菌切れ製品などからスタートすべき
ひっ迫する医療保険財源、医療廃棄物の軽減は取り組まなければならない課題であることは間違いありません。そのため、再製造SUDも取り組むべき方策のひとつといえるかもしれませんが、安全な仕組みの確立や、患者、国民の理解が不可欠です。私自身、まずは滅菌切れの製品(使用期限切れ製品)や、手術室で誤って製品を開封してしまった未使用品などからスタートしてはどうかとも思います。それらには感染リスクがないわけですから。
第一号の再製造SUDが登場するまで、まだ1年程の時間が残されているので、その間、十分な情報公開、周知徹底を含め、患者、国民の不安払しょくや理解の促進に取り組んでほしいものです。
【MEジャーナル 半田 良太】