2019.07.01
6月18日の22時過ぎ、山形県沖で発生した地震で、新潟県村上市で震度6強を観測しました。住宅などへの被害も確認されており、一部の被災住民が避難したようですが、一夜明けて、医療機関や幹線道路などのインフラ機能には、重大なダメージはなく、地域の医療提供は支障なく行われているといいます。
●業界挙げての「大災害対応マニュアル」は毎年改正
手術に用いる特定保険医療材料や、それを使うための器材、在宅利用機器などを流通させ、保守・メンテナンスを手掛ける医療機器流通業は、大規模災害に備え、東日本大震災以降、業界団体である日本医療機器販売業協会(医器販協)が策定した「大災害時の対応マニュアル」を毎年改正し、災害対策に万全を期しています。
今回の地震では、マニュアルをフル活用する事態にはなりませんでしたが、医療機器流通業界は、自身の活動を医療のインフラと自負し、活動を展開しています。多職種で患者を支える「チーム医療」の一員という気概を持ち、対策を講じているのです。
●物流業者とも災害対応で協定締結 対策本部は被災場所に応じて柔軟に
マニュアルでは、医器販協と傘下の47都道府県協会が緊密に連絡を取って活動するとの大原則を掲げています。事前準備として、都道府県と災害対策協定を結び、災害時の取り決めをするとしたほか、被災による道路封鎖時に、必要な医療機器を運ぶため、緊急配送用車両の登録準備を呼びかけています。
さらに、広域での配送機能を持つ日本通運のほか、全国の複数ブロックで、運送会社と、災害時の協力の覚書(災害時に積極的に協力するとの精神条項を含む)を結んでいます。もちろん厚生労働省や、医療機器メーカー(業界団体)、日本医師会などとの連絡体制も整えています。
災害本部の設置についても様々なことを想定。東京の医器販協を対策本部としますが、首都圏直下型地震の場合には、大阪や、福岡に対策本部を移転することも明記するなど、シミュレーションも万全です。
●必要な資材などもリストアップ 様々な事態を想定した準備
現実的な対応として、被災後48時間程度、救援がないことを想定し、被災地で自給自足できるだけの水や食料などの持ち込みやガソリン給油に必要な硬貨を含めた現金の用意、電源、通信、簡易トイレのほか、災害派遣医療チームが必要とする標準的な機材一式も、①最優先治療群②非緊急治療群③軽処置群というカテゴリー別にリストアップしています。
●経営状況は悪化の一途「インフラ機能果たせるのか」
こうした医療インフラを支えているとの自負から、大規模災害マニュアルを毎年改正する医療機器流通業ではありますが、昨今は厳しい診療報酬改定が続いていることを背景に、価格交渉が激化。病院からは見積もりの再提示や、値引き交渉の機会が急増し、事務作業の負担が重くのしかかります。2018年度の医器販協会員企業の経営状況は、営業利益率1%程度です。
これ以上、医療機器流通業の経営状況を詳報しませんが、彼らには、医療機器を運ぶ物流業者ということ以外に、医療現場で医療機器の使い方を支援したり、保守メンテナンスなども手掛けたりする、技術的なサポートを提供するという側面も併せ持っています。
もちろん、そうした側面を評価する医療機関、医師も数多くいらっしゃるわけですが、一方で、安易に値引きだけを求めているケースも少なくありません。医療界全体が厳しいといわれる中、とくに医療機関とメーカーとの間に挟まれた、流通業者が一番先に音を上げてしまう懸念は払しょくできません。
●機器流通業界が声上げる時期に
今回の山形県沖での地震は、大事に至らずに済みましたが、これを機に、医療機器流通業の役割を見つめなおし、彼らが医療のインフラとしての機能を発揮できるだけの、適切な利益を確保できる体制について、議論するきっかけとすべきでしょう。医療機器流通業者も、「厳しいから助けてください」と訴えるだけでなく、果たしている役割を適切に評価してもらえるよう、自ら声を上げていかなければなりません。お隣の医薬品流通では、業界団体が粘り強く訴え続けたことで、政府も腰を上げ、過度な値引き要請の自粛など、不適切な流通の改善に着手するようになったのですから。
【MEジャーナル 半田 良太】