2020.12.01
国内初の治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」と「COチェッカー」をつかった治療は、既存の保険診療に最大2万5400円分を上乗せすることで決着しました。今年12月から保険診療として、薬物治療(医薬品)、外科手術(特定保険医療材料)に次ぐ、「第三の医療」として、治療用アプリが保険で認められるのです。ニコチン依存症治療用アプリを使った患者は、医療機関の窓口で7620円を追加で支払うことになります。
●治療空白を埋め、行動変容を促す
ニコチン依存症は、禁煙補助剤と計5回の外来を組み合わせ、合計12週間かけて治療することが既に保険診療で認められております。ただ、外来と外来の間は2-4週間空いてしまうため、この「治療空白期間」に、禁煙を断念することが少なくありませんでした。
今回保険適用されたアプリは、この治療空白期間に、医師と患者が情報をやり取りし、それに基づいてアプリから患者に、ニコチン依存症の理解を促し、禁煙に関するメッセージ・動画を流すことで、「行動変容」を促し、禁煙成功率を高めるものです。
ニコチン依存症治療アプリは、国内試験で有効性を立証済みです。それによると、「禁煙補助剤とアプリ併用群」では、9~24週までの禁煙継続率が63.9%となり、「禁煙補助剤と疑似アプリ(有効性に寄与する可能性をのぞいたアプリ)併用群」の50.5%を10ポイント超上回るというエビデンスが、診療報酬で評価された形です。
●加熱式たばこのみ保険適用の対象か
保険診療の可否を決める厚生労働省の審議会では、「そもそも今回のニコチン依存症治療アプリとCOチェッカーを使用した禁煙治療は、紙巻きたばこには有効だが、一酸化炭素の出ない加熱式タバコでは役に立たない」との指摘があがっており、医療機器としての製造販売承認を取得した「患者の呼気一酸化炭素濃度10ppm以上」という範囲での使用に限定されることになりそうです。
●治療アプリの開発で各プレーヤーがしのぎを削る
今回、治療用アプリが新たに保険診療として高い評価を得ることになりましたが、今後、医療ベンチャー、製薬企業、医療機器メーカーなど、様々なプレーヤーがこの分野でしのぎを削って製品開発を進めていくなかで、環境整備は欠かせません。
●医療機器センター デジタルヘルスの特性踏まえた評価の在り方を提言
公益財団法人医療機器センターは、「今の医療保険の枠組みではデジタルヘルスの『特性』が、積極的に上乗せ評価がなされにくい」との問題意識から、「AI・デジタルヘルスの進歩を見据えた新たな保険償還制度に関する提言」を9月に取りまとめました。
提言では、治療の成績・成果に基づく「アウトカム評価」の視点を取り入れることや、保険診療から一定期間データを集め、「再評価する仕組み」を構築することなどを申し入れています。
さらに、保険の可否を審査する現行の体制について、デジタルの専門家が参画していない点を指摘し、「新規の専門家を募り、新しい専門組織を設置する必要性」にも触れたほか、診療報酬体系について、デジタルヘルスに関する医療技術とそうでないものを明確に区別する体型に整理し、「デジタルヘルスに即した診療報酬項目を新設」して、独立させてはどうかとも提案しています。
「日の丸印」の治療用アプリを、世界市場に拡販していくためには、経済的な裏付けは欠かせません。当面は母国市場で、有用な治療用アプリを含めたデジタルヘルスが、適切に評価される環境が整うことを期待しています。
【MEジャーナル 半田 良太】