2022.08.01
日本円の価値の下落が止まりません。巷では、政策金利が低い日本銀行と、インフレ防止のため、金利引き上げを進める米国の金融政策の違いが理由と言われています。最近は1ドル140円手前で推移しており、半年で約25円も「円安」に振れています。
この為替水準の変動は、医療機器業界にも影響を及ぼします。数年前のコラムでもご紹介しましたが、画期的な特定保険医療材料が登場すると、新たに公定価格を設定することになるのですが、その際には、「外国での販売価格」を参考にします。
例えば、米国で100ドルの製品であれば、今年1月は円換算で1万1500円程度ですが、現在は1万4000円程度となります。特材の価格設定ルールは様々で一概には言えませんが、外国での販売価格を意識しますので、為替が「円安」に推移すると企業にとってマイナスはありません。しかし、医療という公共性の高い分野で、為替の影響をもろに受けるのは、あまり好ましくないのではないでしょうか。企業にプラスに働く時期だからこそ、「為替の取り扱いルールの見直し」を厚生労働省に提起してほしいと思います。
●業界の見直し提案は「円高で困ったとき」に多かった
私が業界について取材するようになった、ここ10年を振り返ると、医療機器業界は、「円高」局面で、「為替の変動」を問題視する場面が目立ったように感じます。
とくに2年に1回の診療報酬では、既存の特材価格を調べたうえで、英・米・独・仏・豪での平均販売価格(外国平均価格と言います)と比べて、一定以上の割合を超えると、特材価格を強制的に引き下げる「再算定」という、“一方的な引き下げルール”に頭を悩ませていました。「再算定」ルールは、為替が、「円高」に振れると価格引き下げにつながる可能性が高まるものの、逆に為替が、「円安」に振れた場合には、引き上げルールがないことに、企業、業界は強い不満を抱いていたと記憶しています。
●公共性の高い分野で「為替影響の平準化」を求めるのは業界のエゴなのか
少子高齢化の中で、医療保険財政は厳しさを増しているので、無駄を省くことは必要不可欠。医療機器についても、革新的な製品の評価を高くする一方で、汎用化したものはそれなりの評価にとどめる必要性があることに、異論はありません。
為替を含めた問題を議論する厚労省の審議会(中医協)では、異業種の民間企業は、為替の影響も企業リスクとして踏まえて対応しているとの意見が上がり、為替水準への対応は企業努力の範囲内で取り扱うべきとの論調が支配的でした。
とはいえ私自身、医療という公共性の高い分野では、為替の影響は極力ニュートラルになるような制度設計を期待したいところです。医療機器メーカーが製品を安定的に供給し続ける(海外企業から供給し続けてもらえる)ため、為替の影響を平準化することは、一概に、業界の身勝手な要求と退けられるような話ではない気がします。
●時勢を捉えた提案で、為替問題を議論の俎上に載せてはどうか
業界には、自らにメリットの働く「円安」の今だからこそ、「為替」問題の見直しを提案してもらいたいものです。
例えば、画期的な特材の価格設定や、再算定で用いている外国価格を算出する際の「為替水準」について、現時点では、前者が「直近1年」、後者が「直近2年」の平均としていますが、これをともに「3年」に延ばすという提案であれば、議論に値するのではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】