2022.11.01
人工知能(AI)やディープラーニング技術などを活用した、新たな診断・治療の手段として期待されるプログラム医療機器。厚生労働省は今秋から「プログラム医療機器の優先的審査」を開始し、革新的な製品を数多く生み出してもらう考えです。2022年度はあくまで「試行的」という位置づけで、企業からの申請などの状況を踏まえ、23年度以降に「恒久化」するかどうかを判断することにしています。
●医薬品、医療機器は一足先に優先審査制度を導入済み
日本発の画期的な医療関連製品を市場に投入するため、厚労省は優先審査のスキームを作っています。まず医薬品で2015年にスタートし、その後、医療機器、体外診断薬、再生医療等製品に対象を拡大しました。開始当初は、厚生労働省による「通知ベース」で、「先駆け審査指定制度」として運用してきましたが、医薬品医療機器等法(薬機法)の改正に合わせ、一定の条件を満たしたものを「先駆的医薬品・医療機器」として「法制化」し、政府を挙げて、日本発の画期的な医療関連製品の実用化を後押ししています。
●プログラム医療機器のグローバル市場 27年に約13兆円に急成長
政府は、医療関連産業を振興することで、医療水準の維持・向上、経済成長につなげる考えを示しています。医療機器産業は、中小企業の“モノづくり力”を活かした製品設計が可能で、経済けん引役としての潜在成長力を期待されてきました。近年はAI技術などを活用したプログラム医療機器の市場が盛り上がりを見せており、経済産業省は、2027年にはグローバル市場で約13兆円(1ドル150円換算)、現在の約5倍弱まで市場が拡大するとの推計を示しています。
●すでに先行する海外勢に遅れ
厚労省も、プログラム医療機器の開発を後押しするため、PMDA(医薬品医療機器総合機構)と厚労省に分かれていた相談窓口を一元化したほか、バージョンアップが繰り返されるプログラム医療機器の特性を踏まえた審査体制を採り入れるなど、スピードアップを図ってきました。ただ、日本デジタルヘルス・アライアンスが内閣府の規制改革推進会議に示したデータを見ると、日本の承認、申請中のプログラム機器(デジタルヘルス)の数は、先行する
米国、ドイツの10分の1程度にとどまっており、海外勢に後れを取っており、さらなる迅速化ができないか、議論を進めております。
●優先審査は「画期性」「有用性」「日本で承認する意思」の3条件クリアが要件
今回の優先審査の試行的実施は、「プログラム医療機器の実用化の促進のため、2022年度中に、革新的なプログラム医療機器を指定し優先的に承認審査を行う制度を試行的に導入する」とした、政府が今年6月に閣議決定した「新しい資本主義実行計画フォローアップ」を受けた措置となります。
具体的な優先審査の指定を受けるための要件は、(1)治療法、診断法又は予防法の画期性(2)対象疾患にかかる医療上の有用性(3)世界に先駆けて日本で早期開発及び承認申請する意思と体制―があることを、すべて満たさなければなりません。これにより、製造販売承認申請から承認までの総審査期間を「6か月以内」に半減させるとの目標を掲げています。
●診療報酬での上乗せ評価の是非「検討の俎上に載せてはどうか」
プログラム医療機器は、数少ない成長産業のひとつで、上記の通り、グローバルでの市場規模も10兆円を超えると言われています。開発のスピードアップに向けた取り組みに期待するとともに、厳しい保険財政下であることは百も承知ですが、審議の場でタブー視されている“産業振興の視点”を容れ、診療報酬での上乗せ評価の是非を、検討の俎上に載せてもよいかもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】