2023.02.01
AI(人工知能)や治療用アプリに代表される、プログラム医療機器(SaMD)の特性に応じた制度の構築に向けた議論が、年始早々加速しそうな動きを見せています。政府の規制改革推進会議が昨年12月の中間答申で、SaMDについて、薬事承認と保険適用を連動させ、いわゆる2段階で評価する、“仮承認・仮保険償還制度”の創設を要求。それに呼応する形で、厚生労働省も年初に、診療報酬改定の議論をする中央社会保険医療協議会の下部組織として、SaMDワーキンググループを設置する方針を表明。規制改革推進会議の提案をベースに、2024年度の診療報酬改定に向け、詳細な制度設計の議論を、早急にスタートすることを決めました。
●規制改革推進会議が“仮承認・仮保険償還制度”の創設を提案
規制改革推進会議が求めるSaMDの“仮承認・仮保険償還制度” のコンセプトは、第1段階として、一部製品で非臨床試験のみでも“仮承認”を与え、“仮保険償還価格”(最低限の暫定価格)を設定。第2段階として、リアルワールドデータなどに基づき“本承認”を与え、エビデンスに基づく“正式な価格”に引き上げるというものです。
薬事と保険を連動させることに加え、正式な保険適用後に、エビデンスが示された場合に、企業側が価格引き上げを求めることのできる「チャレンジ申請」の機会を複数回付与することも提案しています。実現すれば、暫定価格で市場投入から“3回以上の評価見直し機会”が担保されることになります。
●“仮承認”の段階では“最低限”の暫定価格で評価を
規制改革推進会議は、安全性に問題が少ないとされるSaMDを“仮承認”の段階から市場投入し、臨床現場でのエビデンスを踏まえて柔軟に評価する機会を設ける仕組みを作り上げることで、スタートアップの創出などを含めたSaMDの産業育成につなげたいと考えています。
日本が採用する国民皆保険制度にあわせ、「第1段階で最低限の暫定価格」で評価し、「第2段階でエビデンスに基づいて価格引上げを行う」という制度設計を描いています。非臨床試験のみで審査可能なSaMDでは、“仮承認”は最短1年程度、“最低限の暫定価格”の設定も、1~2年程度で完了すると見込んでおり、市場投入のスピードアップを図ることができると期待しています。
●仮価格 類似品は「半額以下」 新機能は「一律の低い価格」
“最低限の暫定価格”とは、以下の2つのケースが想定されます。すでに類似の製品が存在する場合は「類似品の半額や、3分の1の価格」がめどとなり、類似品が存在しない、新しい製品については、「一律に定める低い価格」とすることを、規制改革推進会議の事務局を務める内閣府は想定しています。
●保険希望から適用までの事務処理期間「1~2カ月短縮」を
規制改革推進会議は、企業側が“仮承認”を取得した後、保険償還価格が決まるまでの「事務処理期間」の短縮も、厚労省に突き付けています。
現在、類似製品がない場合の画期的な製品を評価するC1区分(新機能)の事務処理期間は、120日、C2区分(新機能・新技術)では150日とされていますが、「それぞれ30~60日程度の短縮」を検討するよう、厚労省に検討を求めることになります。
●柔軟な保険外併用の枠組みを
このほか、保険外併用療養費制度を活用して、患者がSaMDを利用できる機会をさらに広げます。具体的には、SaMDの保険対象期間が経過した後の「継続的に患者が利用継続を希望する場合」や「希少疾患を対象とする製品で、製造販売承認を少数の症例で取得している製品を利用する場合」が検討の対象となります。
SaMDについては、大きな成長が見込める産業とされ、日本でも期待が高まっています。産業界側は、SaMDの特性に見合った診療報酬上での評価体系の整備を早急に整えてほしいとの考えを持っています。厳しい医療保険財政下で、全ての製品に高い評価をすることは現実的ではありませんが、いずれにせよ現行の評価体系では評価しきれないような、革新的なSaMDを開発することこそが、環境整備の一番の近道かもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】