2023.04.03
はやいもので2023年も3か月が過ぎました。医療界では恒例ですが、新年度入りすると、24年度の診療報酬改定に向けた議論が活発化します。「日本の外科系診療における適正な診療報酬はどのようにあるべきか」をスローガンに掲げ、学術的にエビデンスを積み上げ、厚生労働省に働きかける、外科系学会社会保険連合(加盟学会=外科系
112学会、以下外保連)も2月末、改定議論が本格化する前に、24年度診療報酬改定に向けて、各学会の要望事項を公表しました。要望事項をみると、手術支援ロボット「ダビンチ」による手術の増点などを求める意見が目立ちます。
●ロボット支援手術は“患者に優しく”“病院の懐に厳しい”
外保連の岩中督会長は、手術支援ロボットの普及機「ダビンチXi」のコストについて、「(本体が)3億6000万円ぐらい。年間費用は、減価償却費で6000万円、メンテナンス費も1000数百万円かかる」と解説。具体的なロボット支援手術の1症例当たりのコスト(経費)として、「50万円から60万円かかる」と説明しました。
外保連は、診療報酬の増点の一方、「hinotoriサージカルロボットシステム」や、「Hugo 手術支援ロボット システム」など、相次いで発売された競合品による“価格競争”に期待を寄せていますが、まだまだダビンチによる寡占化状態が続いているため、思うようなコストダウンが見込めません。岩中会長は、競合品の登場で、「(1症例当たりのコストは)30万から40万円ぐらい」ともコメントしました。
こうした状況下で、傷が小さく低侵襲で患者に優しいロボット支援手術は、手掛ければ手掛けるほど、病院の懐事情は厳しくなるばかりで、競争激化による、“眼に見えるコスト削減効果”は、まだまだ先と言えそうです。
●材料・機器の“進化に伴う価格上昇” 診療報酬で吸収できず
外保連処置委員会の平泉裕委員長は、2月の会内紙「外保連ニュース」で、「医療材料・機器の進化に伴う医療材料価格の上昇に処置点数が追い付かず、医療材料費だけで赤字となる処置項目が依然として存在する」状況に苦慮していることを明らかにしています。
外保連の資料によると、こうした医療保険で評価されていないために、保険請求不可の医療材料費だけで設定された診療報酬点数を超えてしまう処置や手技は394術式にものぼるといいます。その内訳は、医療材料費が診療報酬点数の「100%~150%」で194術式、「150%~200%」で68術式、「200%~300%」で70術式、「300%以上」で62術式となっています。こうした赤字となる処置や手技の割合は、微減傾向を示しているそうですが、依然として少なくないという印象です。
●患者目線での優越性を、外科系学会が定義、立証へ
国内でのロボット支援手術の保険適用は、まず既存の腹腔鏡手術などと同じ評価で保険適用し、その後、患者に対するベネフィットが証明されると、評価が引き上げられる枠組みとなっています。ロボット支援手術の具体的な診療報酬点数を見ると、5万点台(50万円台)の術式が複数存在しますが、岩中会長の発言と照らし合わせると、保険請求不可の医療材料費だけで、設定された診療報酬点数を超えてしまうレベルのものが存在する可能性も否定できず、人件費を含めると、確実に採算割れを起こしている術式が多いことがうかがえます。
●患者目線の優越性示し、保険点数の引き上げを求める
そうした中で外保連は、24年度改定に向けて、「既存手術と比べた患者目線での優越性」を定義づけすることで、ロボット支援手術などで、プラス評価を認めてもらう意向を示しています。具体的には、「生存率の改善」「機能温存によるQOL(生活の質)の向上」「医療費・医療資源の削減」などを指標として、ロボット支援手術などの優越性を示し、手術点数の引き上げを求める構えです。
ロボット支援手術は、傷が小さくて済み、社会復帰も早いと言われています。仮にがんで、腹腔鏡手術や外科手術に比べて再発率が変わりないのであれば、私も罹患した際には、ぜひともロボット支援手術を希望したいですし、身内にも勧めたいです。患者にベネフィットをもたらすことが証明された暁には、ロボット支援手術の診療報酬点数を適正に引き上げることにも大賛成です。
ただ、国内では、すでに急性期病院を中心に570台のダビンチが導入済みで、一部では過剰配置を指摘される状況。私自身、導入台数が過剰かどうか判断する材料を持ち合わせておりませんが、仮に点数が引き上げられたとしても、現在の医療保険財政を考えると、すべての導入済病院で、採算が合うような引き上げとなることは想像できません。病院経営層は、機能分担や適正配置の観点から、ダビンチによる診療を続けるかどうかの判断が、求められる場面が来るかもしれないと考えます。
【MEジャーナル 半田 良太】