2024.05.01
経済産業省が、国内の医療機器メーカーが目指すべき方向性を示した「医療機器産業ビジョン2024」をとりまとめました。全世界の市場全体に占める日本市場のシェアが1990年の20%台から2018年には7.3%まで低下傾向にあることから、「国内市場に依存した産業構造では成長に限界がある」と明記、世界最先端で、最大の米国市場の開拓が不可避と位置付けました。
●従来の産業支援策は「国内支援に重点」
経産省はこれまで講じてきた国による産業支援策について、「イノベーションの創出」「国内での実用化の支援」に重点が置かれていたと振り返り、「グローバル市場の獲得までを目指した支援が無かった」と総括。少子高齢化が続く国内では、医療費抑制策が続き、高い成長が見込みづらいことから、「国内企業の米国展開までに必要な活動に対して産業支援リソースを戦略的、集中的に投下し、イノベーション創出のための研究開発投資とグローバル展開による投資回収の2つが循環していく姿を形成することを目指す」と打ち出しました。
●AIなどのデジタル技術はイノベーションの源泉
米国市場に攻め込むうえで欠かせないのはイノベーションの創出。産業ビジョンでは、デジタル時代の到来を受け、昨今注目を集めるSaMD(プログラム医療機器)も含め、AI(人工知能)医療機器の開発促進が重要になることに着目。とくに『多様な医療データ』と『アクセスの容易性』を両立した形で、企業が医療機器開発に利用可能なデータ利活用基盤を構築すると宣言し、「デジタル技術を用いた医療機器の開発を推進する」としています。
●国内スタートアップの活用 大企業との連携強化もカギ
さらに飛躍的な産業成長に向けては、革新的なアイディアを持つ国内のベンチャー、スタートアップの活用も不可欠。ベンチャー、スタートアップは革新的なアイディアこそあれ、人材面や組織面では脆弱なことから、産業ビジョンでは、Medical Device InCubation platform(MEDIC)、Healthcare Innovation Hub(InnoHub)、研究開発支援事業等の活用による不足するリソースの補完、大手企業による出資・提携・M&A、ベンチャーキャピタルを含めた民間資金の供給といった、“エコシステム”の構築が不可欠と整理しています。
●目指せ「第二の朝日インテック」
米国市場の展開の先行モデルとして、OA機器や自動車用のステンレス製の極細ロープに磨きをかけ、医療機器業界に参入した朝日インテックを取り上げています。朝日インテックは、これまで外科手術に頼らざるを得なかった冠動脈の長期間閉塞事例でも、極細ロープの技術を医療機器に転用することで、カテーテル治療を可能にしました。その結果、「米国展開により、スタンダードな治療として地位を確立することで、東南アジア、欧州においても積極的に使用されるようになった」と紹介。朝日インテックは、2004年からの18年間で、売上高が12倍となり、海外売上高比率も50%超に拡大していると例示し、第二の朝日インテックの登場に期待感を隠しません。
●シンクタンクも旗振り役の経産省に期待感
医療機器政策のシンクタンク機能を担う医療機器センターの菊地眞理事長は、経産省が医療機器産業ビジョンを策定したことについて、「満を持して出てきた、大変エポックメイキングなこと」ともろ手を挙げて歓迎。これまで産業ビジョンを策定していた厚労省の役割は、「良い医療を全世界に届けることができるかが省の本課題」とし、「産業育成は経産省の本課題。経産省として、これからはとくに米国市場にいかに食い込むかに日本の医療機器産業はかかっているということを明らかに出してくれた」と述べ、産業振興の旗振り役として期待しています。
政府が自動車、電機に次ぐ、次代の日本経済のけん引役として期待する医療機器産業。こうした期待が盛り上がって10年超が経過しますが、まだまだ日本経済のけん引役にはなっていませんが、着実に歩みを進め、近い将来、グローバルに羽ばたいて欲しいと切に願います。
【MEジャーナル 半田 良太】