2021.10.01
特定保険医療材料は、同じ機能であれば保険償還される価格が同じとなる、「機能区分」という考え方を採用して、製品を評価しています。厚労省の専門家による審議で、一部の画期的と評価された場合には、年間10~40製品(最近10年間)程度、新しい機能区分の創設が認められますが、それ以外の製品は、既存の機能区分と同じ評価にとどまります。さらに特材は2年に1回のタイミングで、市場で値引きされた販売価格を調査し、保険償還価格が引き下げられ、保険財政に負荷をかけない仕組みを構築しています。
●ルールが不明確な機能区分の見直しが存在
どの機能区分で評価するか、また市場実勢価格による価格引き下げや、上記では触れなかった外国での販売価格に基づく価格の見直しについては、それぞれ一定のルールに基づいて実施されています。ところが、厚労省は2年に
1回、一定のルールに依拠しない形で、機能区分を見直しています。
その「機能区分の見直し」の主なものを取り上げてみます。まず時間の経過により、企業が製品の供給を辞めてしまい、機能区分自体は存在するものの、該当する製品が存在しないケース。これは医療機器業界から、実際に機能区分に属する製品がないので、「空箱をつぶすべき」との情報提供を受け、厚労省が廃止を決める「機能区分の簡素化」という手続きです。これは、どんどん進めるべきでしょう。
次に、一度は同じ機能区分で評価したものの、臨床的な意義や、市場での取引価格が、製品ごとに大きく異なっていることが確認されたケースです。これは一つの機能区分を2つに分割するなどの対応が取られます。これを「機能区分の細分化」と呼びます。例えば、人工心肺回路は一つの機能区分だったものを、サイズバリエーションや対象患者が明確に異なる「小児用」と「成人用」に分割・整理したケースです。これも製品特性に合った、きめ細やかな評価に見直す動きといえ、あるべき姿に回帰したと言えるでしょう。
●革新的な製品を、通常品と同じ評価にする「事例」が発生
問題は次の点です。別々の機能区分で評価していたものを、「機能や販売価格に差がなくなった」と判断して、複数の機能区分を統合する「機能区分の合理化」です。
上手くいった事例と、問題が生じた事例の2つをとりあげます。まず前者ですが、10年ほど前までは、ペースメーカーを植え込むと、磁気の影響を受けるMRIの撮影はできませんでした。しかし技術革新で、一定の条件下でMRIの撮影ができるペースメーカーが登場するようになりました。厚労省は、MRI撮影未対応のペースメーカーが市場から撤退した段階で、「標準型」「MRI対応型」の2つの機能区分を、「MRI対応型」に統合したのですが、これも「時代の要請」に応えたと言えるでしょう。
問題が生じた後者の事例をみます。人工股関節のライナーに特殊加工を施し、再置換を減少させることができる「Aqualaライナー」(京セラメディカル)は、2011年に、その革新性が評価され、新たな機能区分として評価されました。これにより11年に、人工股関節のライナーは、計3つの機能区分が創設されることになったのですが、16年に3つの機能区分を突然、一つに統合したのです。
メーカーサイドはこれを不服に思い、医療現場での使用実績を踏まえて、保険償還価格の引き上げを求めることができる「チャレンジ申請」(18年創設の制度)を活用。臨床の専門家が、あらためてその革新性を評価し、20年に再度、別の機能区分として独立することが許されたのです。
●機能区分の合理化 ルール策定や企業との密な対話が不可欠
しかし、保険償還価格は、7万7500円(11年)→7万1700円(16年)→7万6100円(20年)と、企業サイドの経済的なダメージは軽くありません。
仮に「Aqualaライナー」が別の機能区分のまま維持されていれば、同じ機能区分に入る製品は皆無で、競合する製品と、機能面での差別化はできているので、値引き販売する必要はあまりなかったかもしれません。11年当時からの高い保険償還価格が10年間維持された可能性も否定できません。厚労省が、機能区分を突然統合した結果、企業側に損失が発生したと言えます。
機能区分の見直し、とくに「合理化」で問題なのは、一定のルールが確定していない状況で、厚労省が、短期間で自身の判断に頼って、実施している可能性があることです。
医療機器業界は、「Aqualaライナー」のケースを「合理化の問題点」として例示。厚労省に対し、①合理化の検討に至った具体的な理由の共有と、機能区分見直しの透明性・予見性を確保する②新規に設定された機能区分は一定期間、区分の見直しは行わない③関係企業や臨床の専門家と十分な議論が行なえるよう、余裕を持ったスケジュールを早期に提示する―ことを申し入れています。
厚労省は、少人数で、多種多様な業務を抱え、多忙を極めていることは十分承知しております。医療機器を担当する医系技官は、臨床現場を離れており、さらに自身の専門外の診療科の製品を取り扱わなければならないケースもあるでしょう。
だからこそ、外部の臨床の専門家の意見や、メーカーの言い分にも耳を傾ける必要があるはずです。さらに、早期のスケジュールの提示や、合理化を検討する際には、企業との密なコミュニケーションや十分な意見表明の機会を設けるなど、一定のルール化は必要になると思います。革新的な製品であげた利益が、次のイノベーションを生み出し、患者さんの健康に貢献することになるのです。
【MEジャーナル 半田 良太】