2023.07.03
経済産業省は今年に入り、日本の医療機器メーカーの合計売上高を、2050年に現在の3兆円から13兆円に拡大させる目標を設定しました。現在から4倍以上の売上高の達成を“絵に描いた餅”に終わらせないため、5月に研究会を新設し、検討を開始しました。研究会では、海外メーカーが先行する治療分野での巻き返しや、世界最先端で、最大市場を誇る米国市場の開拓を主眼に置くなど、チャレンジングな内容を想定しています。さらに新しい分野でもあるプログラム医療機器(SaMD)をはじめとするデジタルヘルスも成長分野として期待を寄せています。
●産業ビジョン研究会を新設 厚労、文科、内閣府も参画
経産省が立ち上げたのは、「医療機器産業ビジョン研究会」。下部組織としてワーキンググループも設置し、厚生労働省、文部科学省、内閣府らの関係者をオブザーバーとして招きいれ、政府一丸で目標達成を目指していきます。世界の医療機器市場は現在50兆円とされ、50年には200兆円まで拡大し、4倍になるとの試算があります。経産省は、日本企業に対し、4倍増プラス1兆円と、市場成長率を上回るハードルを設定し、国内の医療機器メーカーを鼓舞するとともに、実現に向けてバックアップする考え。年度内にも報告書を策定する計画です。
●水平分業体制へ産業構造を変革
研究会は、(1)「産業構造」(2)「価値の源泉」(3)「経済安全保障・国際展開」の3つを主な論点として掲げています。
国内の医療機器メーカーの現在の「産業構造」をみると、開発から設計、生産、販売まで一気通貫で手掛けるケースが多いのですが、研究会は、開発や設計・生産に社外のリソースを活用する、言うなれば「買収や外注」に特化することを検討課題にあげています。つまり、医療機器メーカーが、開発シーズを持つスタートアップやベンチャー企業を買収し、製品化につなげることに注力してはどうかと問題提起しているのです。
加えて、優れた“モノづくり力”を持つ日本の中小企業の更なる活用も視野に入れています。医療機器メーカーに
OEMやCDMOに対応できるような、「製造委託」企業の育成を促しています。
さらに医療機器メーカーが新しいテクノロジーなどの目利き力を磨き、スタートアップの買収などに注力することで、垂直一貫型から水平分業体制へ、産業構造の変化を促したい意向を持っています。
●「ソフト・ハードの融合」「ニッチトップ戦略」などを検討
「価値の源泉」では、例えば国際競争力のある診断分野では、医療機器とAI・ITなどのデジタルを組み合わせた、「ソフトとハードの融合」がカギになると想定しています。SaMDについては、患者のスマートフォンにアプリをダウンロードして生活習慣の改善などを促す治療アプリがすでに登場していますが、今後は、診断、治療に留まらず予後の改善やリハビリに効果を及ぼすような多様な製品が登場するとして、潜在力に期待を込めています。
また治療分野については、欧米企業を中心としたグローバル企業のキャッチアップに向けて、先述した「開発シーズの買収」を視野に入れます。緻密な特許戦略で固められた、ペースメーカーなどで追いつくことは「いばらの道」であることから、“選択と集中”を進めなければならず、比較的規模の小さい領域で、シェアの過半を握る、“グローバル・ニッチ・トップ戦略”に活路を見出していきます。どういった分野があるのか、今後ターゲティングなどの具体的な戦略を練っていく方針です。
●輸入依存度高い製品の開発支援
「経済安全保障・国際展開」では、中国やタイ、インドネシアなどで自国優先主義・ブロック経済化の萌芽がみられることから、政府レベルで粘り強く交渉を続け、翻意を促していくという地道な対応を進めます。これは民間レベルを超えた政府レベルの対応となります。
コロナ禍での教訓も踏まえ、人工呼吸器など、輸入依存度の高い製品の開発も支援していきます。先に触れた市場シェアの過半を握るニッチトップ戦略が開花すれば、輸入依存度の高い製品と、相互に融通し合うような関係が構築できるかもしれないとの構想も温めています。
●「日本経済のけん引役に」との掛け声からはや10年超
「医療機器産業を日本経済のけん引役に育成する」と政府が声高に訴えてから、はや10年超が経過しました。国内の機器産業自体は、間違いなく成長し続けていますが、日本経済のけん引役という高い目標からすると、残念ながら期待したほどの伸びとは言えそうにありません。経産省の研究会には、医療機器産業が抱える課題や、成長の足掛かりとなるようなヒントをまとめてもらうことで、国内の機器産業や個別企業が飛躍することを切に願っています。
【MEジャーナル 半田 良太】