2023.03.01
「医療機器を、安心と成長を牽引するドライバーへ」-。自民党の有志議員(議員連盟)が昨年末、日本の医療機器産業を、世界の保健医療と経済成長を牽引するドライバーとするための「中間まとめ」を策定しました。
中間まとめは、①スタートアップエコシステムの強化②人材育成・リスキリング③薬事・保険制度改革④国際展開⑤安定供給の5本柱。今後、有識者などから更にヒアリングを重ねたうえで、「最終提言」という形にブラッシュアップ。医療機器産業を経済けん引役にするとした政府の意向を、全面的にバックアップする考えです。
「中間まとめ」は、自民党の「優れた医療機器を世界に迅速かつ安全に届けるための議員連盟」が12月6日に策定したもの。
●スタートアップ支援で「エコシステムのモデル拠点化」構想
まずスタートアップの支援に向けては、米国のシリコンバレーなどの先進事例に倣い、「医療機器(メドテック)拠点構想」(仮称)の実現を提言。全国数カ所の物的、人的ネットワークをハブ化し、大学、ベンチャーキャピタル、投資家、起業段階の支援者(インキュベーター)、機器開発専門家などのネットワーク、スタートアップの入居スペース、共同ラボなどにより形成される「エコシステムのモデル拠点化」を進める重要性を説いています。欧米の医療機器メーカーが、スタートアップをM&A(合併・買収)することで、成長を続けていることから、国内企業による円滑なM&Aが進むよう、税制措置や財政支援の必要性にも触れています。
●スタートアップ支援やモノづくり技術を活かした学び直し
人材育成に向けては、中小企業などが持つ、日本の「モノづくり技術」を活かし、さらなる成長や賃上げにつながる“学び直し”を強化し、必要な支援策をパッケージ化した「医療機器人材リスキリングパッケージプラン」(仮称)の作成を提案しています。
さらにパッケージプランでは、前述の起業・スタートアップ支援や、薬事・保険などに精通した専門人材の育成、臨床現場で働く臨床工学技士、診療放射線技師などのトレーニング充実にも言及しています。
●SaMDの特性評価へ「仮保険制度」に言及
薬事・保険上の対応については、とくに今後成長が見込めるSaMD(プログラム医療機器)に着目。SaMDの特性に応じた制度設計が必要とし、ドイツの仮保険価格制度(DiGA)を参考に、「早期承認と暫定的な保険償還」、エビデンス蓄積を踏まえ、保険適用後に上乗せ評価を求めることのできる「チャレンジ申請の適用」を求めています。
現在日本では、保険診療が前提。保険診療と自由診療を併用できる、いわゆる混合診療が認められているのは、先進医療として保険適用を目指す「評価療養」と、差額ベッド代などの「選定療養」などに限定されていますが、中間まとめでは、「なし崩しの拡充とならないように」、条件や制限を設けつつ、イノベーションを評価できるような柔軟な枠組みを検討してはどうかと投げかけています。
●国際展開を支える支援組織の体制強化を
さらに持続的な成長のためには、国内のみならず、北米、欧州、ASEANなどの大規模マーケットへの「国際展開」が欠かせないと指摘し、個別対策として、大使館、ジェトロ(日本貿易振興機構)、日本の医療の国際展開を推進する「MEJ(メディカル・エクセレンス・ジャパン)」の体制強化などを盛り込みました。
●安定供給への対応「経済安全保障」も念頭に
「安定供給」については、感染症や国際紛争などの国際情勢不安定化を受けて、「経済安全保障の枠組みを念頭に、グローバルな医療機器開発・製造のエコシステムの確立」が必要と明記しました。サプライチェーンの実態をタイムリーに把握し、迅速な供給体制を強化する仕組みを構築し、コスト増への対応を含めて、「必要な医療機器へのアクセシビリティを損なうことがないよう、適切な支援を行う」としています。
現在の医療機器産業には、「経済のけん引役」と、人工呼吸器などをはじめとする生命関連製品の確保という「安全保障」の2つの役割が、期待されています。国際競争も激化する中、簡単に成果があがると言いきれませんが、業界や企業の皆さんには、政府や国民からの期待を重荷と捉えるのではなく、やりがいと意気に感じて、チャレンジしてもらいたいです。
【MEジャーナル 半田 良太】