2023.09.01
2019年4月から本格運用を開始した医薬品、医療機器を対象とした費用対効果評価制度の見直し作業が進んでいます。現在、薬価・特定保険医療材料価格制度を補完する観点から、革新性が高く、医療保険財政への影響が大きい製品(市場規模が大きい、公定価格の単価が著しく高い製品)を中心に、公定価格を見直すツールとして活用されています。今年7月1日時点で、医薬品を中心に43品目が評価対象となり、28品目の評価が完了しています。
●保険適用の可否判断に用いない日本独自の制度設計
費用対効果評価制度は2010年頃から、診療報酬や薬価、医療材料の公定価格を審議する中央社会保険医療協議会(中医協)で導入に向けた検討がスタートしました。2016年4月の試行的導入に始まり、19年4月から本格運用を開始するなど、これまでに10年弱の時間をかけて、慎重な導入を進めてきました。
日本よりも一足早く導入している英国などの欧州諸国では、費用対効果評価の結果を、保険適用の可否判断に用いています。ただ日本では、費用対効果評価の結果を、保険適用の可否判断には使用せず、保険収載した製品の公定価格の見直しに用いるという制度設計を採用しています。ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグと言われるような、最先端製品の導入の遅れが生じないよう、治療を必要とする患者のアクセスを阻害することなく、制度を運用していくという思いを込めた、日本独自の制度化が進んでいます。
●24年度制度改革も「基本骨格を維持」する方針
中医協による24年度の制度改革でも、現行制度の基本的な骨格を維持したまま、これまでの運用であきらかになった課題を解消するというマイナーチェンジの方針が示されています。例えば、価格調整の範囲を、有用性加算などの“上乗せ部分のみ”に限定せず、「価格調整の範囲を拡大させるべき」といった意見や、費用対効果評価を図るモノサシとなる比較対象技術が複数存在する場合に、どのように絞り込むかといったことが、議論の俎上に載せられます。
●介護費用の取り扱い「引き続き研究を行う」と先送りを示唆
一方で、中医協の費用対効果評価専門部会が示した、24年度の制度改革では、これまでの議論で積み残しとなっている「介護費用の取り扱い」について、「引き続き研究を行う必要がある」として、今回の制度改革のメニューには載せないことになりました。
現行制度では、介護費用の取り扱いについて、「基本的分析に加えて、公的介護費を含める追加的分析を実施することができる」と明記しています。つまり、企業側(製薬企業、医療機器メーカー)が、介護費用を含めて費用対効果評価の分析を行ってもよいとしていますが、海外での具体的な事例が乏しいとして、積極的に費用対効果評価のツールとして活用しているわけではないということです。
●高齢化進む日本 率先して「介護費用」の視点を容れた制度設計を
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の高齢化率(全人口に占める65歳以上の高齢者の割合)は28.6%(20年)と世界最高水準。日本が費用対効果評価制度創設に向けて参考にした英国、ドイツ、フランスの高齢化率は、いずれも20%前後で推移していることを踏まえると、こうした諸外国での介護費用の取り扱いが整理されてから参考にするのではなく、日本としてどのように扱うのか、率先して取り組むべき課題ではないかと思います。
「認知症の進行抑制」や、「低侵襲手術による寝たきりの防止」など、介護費用を減らすことができれば、これを評価する視点を積極的に取り入れるようなルール化を進めることで、諸外国の制度設計の参考にしてもらうような取り組みが、課題先進国の日本として必要ではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】