2013.04.01
政府が、医療機器産業を日本経済の牽引役に位置づけ、規制の緩和や産業の振興に向けて、政策の舵を切りました。「ようやく医薬品“等”という括りから、医療機器産業として認められるようになった」と、プレゼンスが低かった当時を振り返り、関係者も感慨ひとしおです。ただ、「4番バッター」として、いきなり活躍を求められることに、一部では戸惑いもあるようです。ではなぜ医療機器産業が、これほどまでに高い期待と注目を集めているのでしょうか。周辺状況を整理することでその理由を明らかにするとともに、医療機器産業の成長に向けた政府の取り組みも紹介していきます。
●電機業界など、日本の主力産業に変調
医療機器を成長産業に育成しなければならない理由のひとつとして、日本経済を引っ張ってきた、主力産業が変調を来たしていることがあげられます。トヨタなどの自動車業界、ソニーなどの電機業界の国際競争力にかげりが見え出しました。自動車業界は、いわゆる“アベノミクス”期待による昨今の円高是正で、競争力を回復しつつありますが、電機業界は、依然として暗雲が立ち込めたまま。液晶テレビ市場では韓国企業などの、スマートフォン市場では、米アップルなどの後塵を拝していることは、皆さんご承知のとおりです。さらに自動車業界も、排気ガスなどの環境対応を求められており、高い競争力を将来にわたって維持できる保障はありません。こうした背景もあり、政府は、日本を支える次代の産業育成を急いでおり、医療機器業界にスポットライトを当てるようになりました。
●高齢化を「拡大する市場」と捉え、発想を転換
次に発想の転換があります。日本では、いわゆる“団塊の世代”が60歳を超えており、高齢化に拍車がかかっています。65歳以上の高齢者の割合が約3000万人に達し、高齢者が人口の4人に1人を占めています。今後も少子化とあいまって、世界に先駆けて高齢化社会に突入しています。
政府は、少子高齢化に伴い、医療や介護ニーズの増加を、「社会コスト」と見るだけでなく、人口減少社会の中で拡大を続ける「数少ない有望な市場」と捉えるようになりました。つまり拡大する医療ニーズに応える産業を育成するということ。その中核のひとつに、医療機器産業を位置づけたのです。
●日本のものづくり力は健在も、医療機器は海外製品に依存
先ほど、電機業界の凋落ぶりに触れましたが、製造業全体で見ると依然として日本の競争力の源泉である“ものづくり力”は、世界トップクラスです。例えばアップルのスマートフォン「iPhone」や 、燃費性能を飛躍的に向上させた米ボーイングの旅客機「787」には、半導体、センサー、各種素材など、日本の部品が数多く採用されていることは、良く知られています。実は、米国産の手術用ロボット「ダヴィンチ」も、「iPhone」「787」と同様と言われています。政府はこうした素材などのものづくり力を、海外メーカーの下請けとして活用することにとどまらず、「国産の革新的な医療機器に搭載できる」と考えているのです。
●薬事法を改正し、デバイス・ラグ解消へ
ただ「ダヴィンチ」の例でもお分かりのように、日本の医療機器業界はものづくり力を最大限、活かしきれていません。日本の医療機器市場を整理すると、貿易収支は長年赤字。とくに治療系機器をみると、国内市場の5割以上を海外製品に依存する状況が続いています。
その要因として、医療現場の発想を製品に纏め上げる人材の不足や、過度にリスクを恐れ、製品開発に消極的とされる企業の姿勢などが問題視されますが、これは、当事者が自ら解決すべき課題といえるでしょう。
そのほか各種課題はありますが、とくに制度面で大きな問題とされるのが、医療機器の審査が、慎重に進められている点で、ここを見直すべきとの機運が高まっています。医療機器を審査する規定を定めた薬事法は、冒頭で触れた「医薬品“等”」という考え方で運用。つまり、医薬品を念頭に置いて作った法律で、医療機器を審査しているということです。
「医薬品と機械・材料は別物だ」-。厚生労働省は、こうした業界の訴えに理解を示し、医薬品とは別に医療機器の特性を踏まえた審査とする方向で、法改正する準備を進めております。海外に比べて、認可が数年単位で遅れてしまう、いわゆるデバイス・ラグを解消すべく、薬事法改正をはじめ、さまざまな方策を打ち出しています。
この薬事法改正という規制の見直しと同時並行で、産業振興を図るための法律を作ることも検討されています。具体的には、国が基本計画を定め、医療機器の開発・普及に関する目標を定める法律を策定するため、自民党、公明党、民主党の有志の国会議員が、最終調整に入りました。次回以降、これらの法改正の動きを、解説していきたいと思います。
【MEジャーナル 半田 良太】