2013.05.01
医療機器産業の振興に向けて、自民党の有志議員などが中心となって策定した法律案が、現在開会中の国会に提出される予定になっています。いわゆる“医療機器基本法案”などと言われるもので、安全で優れた医療機器を、迅速に国民に届けるため、国に必要な措置を講じるよう求める内容です。国に求める必要な措置の中には、医療機器業界が切望する、医薬品を念頭に置いて作られた薬事法の見直しも盛り込まれます。つまり、医療機器基本法案の成立が、医療機器の特性を踏まえた審査への“露払い”を務めることになるわけです。
●基本法案は、産業の振興と審査の合理化を促す「基本的な枠組み」
日本政府が、医療機器産業を日本経済の牽引役に位置づけ、規制の緩和や産業の振興に向けて積極的に取り組んでいることは、前回のコラムでも少し触れました。その基本的な枠組みにあたるものが、医療機器基本法案になります。
医療機器基本法案の正式名称は、「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律案」。(1)医療機器の審査体制が整う外国に遅れをとらないようにすること(2)製品のバージョンアップを重ねるという医療機器の特性を踏まえた審査とすること(3)医療機器メーカー、研究機関、医師などが緊密に連携し、医療現場のニーズにきめ細やかに対応した先進的な医療機器を創出すること-を基本理念に掲げています。
●医療機器の特性を踏まえた審査の“露払い”としての位置づけに
医療機器基本法案ではこの基本理念を実現するために、国に対し、医療機器の研究開発と普及促進に関する「基本計画」の策定を求めています。
研究開発を促すために必要となる施策として、例えば、諸外国に比べて長いとされる医療機器の審査期間を「○か月短縮する」といったことや、革新的な医療機器を創出するため、国際水準の質の高い臨床研究を実施できる医療機関を「○箇所整備する」といったことが、「期限を区切った目標」として設定される可能性があるのです。厚生労働省などの行政官庁にとって、法律に基づいて設定された目標は、「達成しなければならない強いプレッシャー」となるわけで、サボタージュするわけにはいきません。さらに、薬事法の改正も、国が行わなければならない必要な措置として位置づけられます。このため、医療機器基本法案が国会で成立すれば、医療機器の特性を踏まえた審査規定を盛り込んだ形で薬事法の改正をしなければ、極論ではありますが法律違反に問われることになるのです。
一方、普及促進に必要な施策として、日本の優れた医療機器、技術をパッケージで提供する「病院丸ごと輸出」を盛り込むことにしました。政府は、日本の優れた機械や管理システムなどをセットにした「パッケージ型インフラ輸出」を成長戦略の一環として進めていますが、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響で、原発輸出に急ブレーキがかかったことは皆さんご承知のとおり。そのため政府は、医療機器や医療技術をパッケージ型インフラ輸出の目玉に据える意向なのです。こうした産業振興と規制緩和を促す基本的枠組みが医療機器基本法案なので、業界関係者の期待は高まるばかりなのです。
●実は民主党政権時代に“お蔵入り”になっていた基本法案
今でこそ、自民党の議員が医療機器基本法案の音頭を取っていますが、実は民主党政権もその必要性を指摘していたのです。先の衆院総選挙で落選した仙谷由人元官房長官などが呼びかけて設置した、与野党議員による勉強会が旗振り役でした。約1年半前には、民主党議員が中心となり、医療機器基本法案の素案は既に準備されていたのです。
ただ民主党政権は、鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏と、首相の椅子がたらい回しにされ、政権誕生の“生みの親”とされた小沢一郎氏も離党するなど安定政権とは言いがたい状況でした。結果、医療機器基本法案は日の目をみることなく、国会に提出されないまま“お蔵入り”になりました。
●民主は野党転落で、基本法案への足取り重く
そこで政権を奪回した自民党は、経済成長戦略の柱として、医療機器産業を位置づけ、関連する環境整備にまい進。連立を組む公明党と、医療機器基本法を国会に提出することで4月9日に合意したのです。
与党は7月の参院選挙を控え、開会中である国会の審議日程が限られている中、参議院で最も議席数の多い民主党などの協力を取り付け「全会一致」での成立を目指しています。ただ民主党の国会対策責任者が、野党としての存在感を示さねばならないと考えているようで、多くの法案について「審議の先延ばし」を指示しているようです。この姿勢は、医療機器基本法案についても同様だといい、民主党内からも「基本法案と薬事法改正案は民主党政権の積み残し課題。積極的に審議に応じるべきだ」(議員秘書)とあきれられる始末。これから民主党の厚生労働関係議員が巻き返して、党としての考えが改まる可能性はありますが、政争の具となりつつあることは残念でなりません。医療機器の産業振興や規制見直しは、政策的に反対する余地がないものなのですから。
【MEジャーナル 半田 良太】