2013.12.01
異次元の金融緩和策と、成長戦略を組み合わせた、いわゆるアベノミクス効果で、一部大企業の経営が好転し、株価も堅調に推移しています。こうした政策を打ち出している安倍内閣は、医療機器、材料業界を将来の成長産業と位置づけます。業界待望の薬事法改正案も国会で可決・成立し、医療機器、材料の特性に見合った規制見直しに動き出します。一方、来年度から2年間の国内医療材料制度のあり方を左右する、中央社会保険医療協議会では、業界特性を理解したうえでの議論とは程遠く、私も傍聴していて大変残念な気持ちになります。
●診療報酬改定論議が 年末に向け佳境入り
医師の技術料など、医療の公定価格である診療報酬や、医療材料の価格を決める、中医協の議論は、年末の予算編成作業を間近に控え、佳境を迎えております。来年4月は、2年に1回の診療報酬の改定年にあたるため、年末の予算編成作業の中で、公定価格の上げ下げが決定されます。民主党政権で行われた、過去2回の診療報酬改定は、「医療崩壊に歯止めをかける」との名目で、全体として公定価格を引き上げる、プラス改定を連続しました。自民党政権に戻ったことで、プラス改定を容認し続けるのか、厳しい財政事情を踏まえてマイナス改定に舵を切るのか、関係者の注目を集めています。
●医療材料への知識不足を露呈か 委員の資質に疑問符も
世界に先駆けて少子高齢化が進む中、医療分野でも財源に余裕はなく、メリハリをつけた配分を行っていることは、皆さんご承知のとおりです。医療材料制度、材料価格の値付けを議論する中医協の専門部会でも、メリハリをつけた財源配分を行うという方向は変わらず、画期的な製品には高い値段をつける一方、そうではない製品の価格を下げて、財政バランスを保とうとしています。ただ議論するメンバー構成に偏りがあり、業界に対する知識不足も目立ち、実際に機能しているか疑問です。医療材料の公定価格を低く抑え、自らの技術料や薬価改定に配分させようとしているのではないか、と穿った見方をされかねない状況にさえあるのではと、感じてしまう程です。
●適材適所の配置が必要
これまでの議論を振り返り、問題となる発言は枚挙に暇がありません。高齢を理由に、開胸手術ができない患者に、カテーテルで心臓弁を植込む道を拓く医療材料について、ある医師の委員が、「私は革新的だと思わない」と発言しました。
また、医薬品の特許が切れた後に発売されるジェネリック医薬品の例を持ち出し、医療材料の価格を低く抑えるべきと主張した薬剤師の委員もいました。「ジェネリックは、飲みやすくするという工夫を施しても、最初から先発品よりも低い薬価が設定され、改定毎に価格が下がる」として、特許がある革新的な製品でも発売直後から価格が下落するという医療材料制度の特性を無視し、医薬品の特許と同列に考えて発言したのです。こうした知識不足の委員が、ルール作りに関与していることを、皆さんどのように考えますか。
実は中医協委員の中には、外科系分野を専門とする医師がいるのですが、財政影響の大きい医薬品についての部会を希望し、医療材料の部会のメンバーにはなりませんでした。
●中医協は、革新的な製品を評価する仕組み作りの場 適材適所の委員配置が必要
医療機器、医療材料業界は、日本経済を牽引していく潜在能力を秘めていると、私は確信しています。ようやく薬事法が改正され、医療材料、機器の特性に応じた規制に向けて遅まきながらも一歩を踏み出しましたが、足元の企業経営を左右する医療材料制度がこのような状況では目も当てられません。産業の潜在能力だけでは、今後の成長は見込めません。中医協は、成長戦略を議論する場ではありませんが、革新的な製品を評価する仕組みを作る場所であることは間違いありません。委員に奮起を促すとともに、場合によっては、医療材料制度、業界に精通した委員へのバトンタッチも、検討すべきではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】