2015.10.01
全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が3割を占める日本。少子高齢化社会で、右肩上がりで増加を続ける医療保険財政が逼迫し、政府は頭を悩ませています。医療を所管する厚生労働省は、一般化した医療技術などの保険点数を引き下げる一方、これまで対処療法しかなかった疾患で完治が見込める、入院期間の短縮や患者負担の軽減につながるといった、イノベーティブな治療に、高い点数で報いるなど、メリハリをつけて対応しています。ところが医療機器は医薬品と違い、症例数が少ないまま、製造販売承認、保険適用につながるケースは少なくありません。そのため、製品を開発した企業は、有効性などを示すデータが足りないとして、高い評価を得られずに保険収載となるケースを不満に思うことがあるそうです。
●乳房温存後の術後照射に用いる「SAVI」 治療期間が従来比で7分の1
その一例が、乳がんで乳房を温存した後で実施する、再発防止の術後照射に用いる医療機器「SAVIアプリケーターセット」。乳房温存療法後の術後対応として一般的なのは、35日以上かけて行う全乳房照射ですが、SAVIを用いた加速乳房部分照射では5日間で済むといいます。SAVIを、再発の可能性が高い部位に挿入して実施する加速乳房部分照射は、患者負担、入院日数の減少だけでなく、低い被ばく線量で、温存した乳房の見た目にも悪影響が少なくて済むなど、そのメリットは多いといいます。さらにSAVIによる術後照射による乳がん再発率は、米国の多施設共同研究の結果によると、5年後に2~2.5%にとどまっているといいます。
●SAVIの治療は医療機関の持ち出しで成り立つ
こうした状況にも関わらず、医療保険上での評価が十分とは言いがたい状況にあります。「SAVIアプリケーターセット」を用いた具体的な診療報酬点数は、体内に放射線物質を埋め込んで治療する「密封小線源治療」の技術料に含まれると解釈されています。つまり低侵襲医療を実現するにも関わらず、SAVIは特定保険医療材料として、保険償還価格が設定されておらず、担当者がこの治療を選択した場合、SAVIの部分は患者に請求することが出来ず、医療機関の“持ち出し”になってしまいます。
●機器の特性に応じた保険評価のあり方を模索すべき
現在、こうした医療機器の評価の不整合は、修正を求める学会要望が厚生労働省に認められれば、診療報酬改定で修正されるというルールになっています。つまり企業には、訴え出る権利が認められていないということです。関連学会は、SAVIの取り扱いについて、16年度診療報酬改定で見直しを求めるそうですが、企業サイドからの申請を認めるようなルール改変は出来ないのでしょうか。医療機器の特性に配慮した、医薬品医療機器等法が施行されたことを過去のコラムで紹介してきましたが、保険上の取り扱いでも、症例数が少ない医療機器に配慮した仕組みを検討する余地があっても良いと思います。
ただ厚生労働省も、必要最小限の人員で、多忙を極めていることも事実。厚生労働省に過度な負担とならないような仕組みを、医療機器業界とともに考えていくということが、現実的な対応かもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】