2015.08.01
政府が医療機器産業を、将来の日本経済のけん引役に育成すべく、医療機器の特性に応じて規制を変更するなどして、支援していることはこれまでご紹介してきたとおりです。その一環として、大学の研究者、医師、看護師といった医療従事者などのアイディア、異分野もしくは異業種の企業が保有する素材、技術を、新しい医療機器開発や、既存製品の改良・改善につなげるための環境整備も、別途進んでいます。政府はもちろん、関連団体もそうした動きに呼応。官民あげて、国内に点在する英知を結集し、医療機器産業の育成にまい進しています。
●企業OB活用した伴走コンサルで、総合的なワンストップサービス目指す
内閣官房と文部科学省、経済産業省、厚生労働省は、PMDAや地方公共団体などと連携し、「医療機器開発ネットワーク(NW)」を立ち上げ、今年から活動を本格化させています。
医療機器は他の工業製品と異なり、医療現場のニーズを把握して製品開発する必要があり、医薬品医療機器等法で求められる製造販売承認を取得するためには、動物実験や治験などを通じた有効性と安全性の立証が求められます。仮に、治験などでよい成績を収め、製造販売承認を取得できても、医療保険制度の中で使えるようにするためには、保険収載の手続きも必要になります。
異業種から、一足飛びに医療機器メーカーを目指す企業もいるかもしれませんし、「医療現場のアイディアを生かし、医療機関とプロトタイプの策定など共同開発をしたい(研究開発タイプ)」「異業種で培った技術や新しい素材を、医療機器メーカーに売り込みたい(部材供給タイプ)」など、その参入の仕方、関与の程度はまちまちでしょう。
NWでは、そうしたすべての段階で相談に応じることができるよう、医療機器メーカーのOBなどによる「伴走コンサルタント」を確保。適切なアドバイスで、異業種企業が抱える問題解消につなげるほか、必要に応じて連携先を紹介することなどを通じ、これまで埋もれていたアイディアや技術を、製品化につながるような支援体制を敷きました。
●関連業界団体は異業種参入促す取り組みを加速
そして関連業界団体も、異業種からの新規参入を促す枠組み作りに着手しています。主に治療関連の医療機器開発を手がける業界団体である日本医療機器テクノロジー協会は、日本の輸出産業の花形である自動車や電機産業などを支える、中小企業の「ものづくり力」に強い期待感を表明。彼らと医療機器メーカーの接点を作るため、「医療機器技術マッチングサイト」を立ち上げました。まず、希望する大学や研究機関、異業種の中小企業に、保有するノウハウや技術を登録してもらいます。その情報をみて、「医療機器に転用できる」と判断した医療機器メーカーが、彼らにアプローチし、共同して医療機器開発を目指すという仕組みです。
一方、画像診断系でも異業種参入を促す動きが出ており、日本画像医療システム工業会などが中心となって、「ヘルスソフトウェア協議会」を立ち上げました。協議会は、スマートフォンやタブレットなどのITが医療現場に急速に普及していることから、そうした携帯型端末で稼動する、ヘルスソフトウェアの開発ガイドラインを策定し、異業種の企業に公表しています。さらに各種規制などを含めた医療機器業界のイロハを学ぶ研修会なども準備しており、畑違いのIT企業でも参入しやすいような工夫を施します。
●日医は多忙な臨床医をサポート 現場アイディアの製品化の道拓く
そして日本医師会も、臨床医が抱えるアイディアの掘り起こしをサポートする事業を立ち上げました。開業医の利益優先と捉えられがちですが、医療機器開発に貢献し、日本の成長戦略に寄与したいということが、今回の事業開始の目的だといいます。
日医によると、臨床医は多忙を極めており、医療現場でひらめいた医療機器の開発アイディアなどを転用し、事業化につなげるような時間的、精神的余裕はないとしています。そこで日医がひと肌脱ぎ、現場発のアイディアや開発候補の技術を、登録、目利きをするシステムを外部機関などと連携して構築。有望と判断したアイディア、技術を、関連する組織に紹介する「橋渡し役」を担い、臨床現場のアイディアを事業と結びつけるといいます。
政府や関連団体、そして日医までが、医療機器開発に向けた環境整備に汗をかいています。医療機器メーカーは、こうした環境をいかした革新的な製品の発売につなげる義務があります。ただそれだけで、海外大手と伍して戦えるような甘い世界ではありません。必要に応じて業界再編に踏み切るなど、是が非でもこうしたサポートに応えて欲しいと祈念しております。
【MEジャーナル 半田 良太】