2016.03.01
少子高齢化の進展で、社会保障財源がひっ迫していることは、国民間の共通認識になっています。中でも医療・介護関連は、社会保障費の約半分を占めるため、政府も診療報酬・介護報酬に厳しい姿勢で臨んでいます。直近の診療・介護報酬がいずれもマイナス改定となっているのがその証左です。そうした歳出削減の具体的なメニューを決める厚生労働省は、メリハリをつけて保険償還価格の上げ下げをしていますが、今年4月から費用対効果評価というツールを用いることを正式に決定。具体的な対象品目についても明らかになりつつあり、概略が見えてきました。
●再生医療等製品の細胞軟骨「ジャック」が該当
費用対効果評価とは、これまでのコラムでも紹介してきたとおり、既に設定されている特定保険医療材料価格、薬価が、治療効果と比較して高いか安いかを判断する新たなツール。そのツールを用いて検証する具体的品目がこのほど明らかになり、再生医療等製品である培養細胞軟骨「ジャック」が該当することがわかりました。 ジャックは、事故などで膝軟骨を欠損した患者の治療に用いるもので、膝機能の改善や移植後の再手術の必要がないといったイノベーションを高く評価し、2013年に200万円を超える保険償還価格がついています。日本が進める再生医療の成長産業化という流れにも資することから、各方面から高い期待を集めています。
●費用削減が暗黙のコンセンサス? 既存点数より高い評価をどう裁くか
実はジャックについては、別の政府予算を使って、イノベーションを適切に評価しているかどうかを、保険償還価格を決める中央社会保険医療協議会とは別に、学者が検証しています。その結果をみると、整形外科の臨床医のほとんどが、現在の保険償還価格よりも革新的との結論を下しています。 費用対効果評価を財政削減のツールとして用いるという医療界での“暗黙のコンセンサス”とされる中、ジャックのように、現状よりも高い評価が出た場合には、どのような対応をとるのか注視されます。
●粒子線治療の技術料も視野
また、2018年度改定に向けて、高額な医療機器に対して設定される診療報酬(技術料)についても、費用対効果評価を導入することが、中医協からの宿題とされました。ターゲットは粒子線治療と言われています。ただ粒子線治療は、大規模な装置が必要なため、設置するための土地代などをどのように考えるのかといった課題も横たわります。都心近くと田舎では、土地代が大きく異なる中、どのように費用計上するのかといったルール作りも含め、頭を悩ませることになりそうです。費用対効果評価は、特材や医薬品といったモノ代の評価、そして大型機器を用いた技術料に留まらず、最終的には医師の診断や執刀などにも拡がることになるのでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】