2016.05.02
右肩上がりで伸び続ける社会保障費を抑えるため、政府は、手を変え品を変え、医療費抑制にまい進しています。医療機関の収入源である診療報酬はもちろん、近年はとくに医療費の約25%を占める薬剤費を、削減のターゲットとしています。今年4月には、発売当初の予想を大幅に超える、年間売上高1000億円超の新薬の薬価を最大50%引き下げる制度がスタートしたほか、これまで進めてきた後発品(ジェネリック)の使用を促す流れをより加速するなど、多岐にわたる対策を講じており、製薬企業は悲鳴を上げています。
こと医療機器に目を向けると、海外製の製品価格の高止まりを修正する「内外価格差の是正」の達成度が槍玉に上がりました。ただ急激な価格差の是正だけでは、産業振興の妨げにもなりかねないことから、合わせてそれ以外での適正化手法も必要ですが、内外価格差是正以外に目ぼしいツールは見当たりません。
そうした中、使い捨ての医療機器を滅菌して再製造・再使用するルールを制定する研究が、厚生労働省の指示で進んでいます。研究を踏まえ、近い将来、制度化された暁には、再製造品の公定価格を低く設定すれば、「医療費を抑制できる」と、期待する厚労官僚もちらほら。研究班も「デバイスジェネリック」と鼻息が荒く、行政当局の医療費抑制効果への期待は高そうです。
●米国では15年超の歴史誇る
海外では、使い捨て医療機器を滅菌して再製造・再使用する流れが加速しつつあります。まず2000年スタートの米国を皮切りに、EU全体でも、再製造品の規制の枠組みが6月に整います。そうした動向を横睨みしながら、日本でも2015年度から検討に着手。16年度末までに、再製造・再使用の枠組みを容れる諸外国を視察し、日本版の制度設計の“原案”を策定する計画です。厚労省は、原案をベースに、薬事規制、PMDA審査のあり方などを検討、その後、保険での評価が議論されることになるので、もうしばらく時間が必要かもしれません。
●対象製品は「安全性」「有効性」「耐久性」
再製造・再使用できる製品はどういったものが想定されるのでしょうか。植込み型の除細動器や、狭窄した血管を拡げるバルーンカテーテルなど、濃厚な血液汚染や、華奢な作りの製品は、難しそうです。
キーワードは、「安全性」「同等性」「耐久性」と言えるでしょう。その一例が、不整脈などの検査に用いる「EPカテーテル」。単純な構造で、耐久性も高いため、滅菌がしやすく、海外では6回の再使用が認められているといいます。医療費については、通常1回の検査で、1本20万円の製品を5本前後使うので、材料費だけで100万円程度かかりますが、再製造品では1本あたりの値段が新品の数割引きで済むため、医療費の節約につながります。
●院内滅菌などのグレーゾーンも解消か
日本では、使い捨て製品の再使用について、過去に厚労省の規制にあいまいな部分もあったため、診療報酬抑制に喘ぐ医療機関が、院内で滅菌して使いまわす事例が散見され、一部問題視されたこともあります。研究班は、「再製造のルールが明確化されれば、こうしたグレーゾーンも解消する」との見方を示します。
●「小さく生んで大きく育てる」ような慎重な対応を
一見すると、バラ色の未来が待ち構えているように感じるかもしれませんが、安全神話を信仰するここ日本で、再製造・再利用の制度化が、とんとん拍子に進むという確証はありません。未知なる感染リスクなど、不確定要素を挙げればきりがありませんし、実際フランスでは、再製造による感染問題で、全面禁止されているのですから。
さらに再製造を手がける企業の問題もあります。海外では、再製造専業メーカーや、先発品の再製造部門が活躍しているようですが、取り組み姿勢に温度差があるようです。安全面を考えると、先発品メーカーが、自ら開発した製品の再製造に乗り出すことが理想的ではありますが、自らの利益を減らすことに積極的な企業はいません。ノウハウを持った国内企業も見あたりません。
過度な期待は禁物。「小さく生んで大きく育てる」という姿勢で、焦らずに検討を進めるべきではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】