2016.06.01
「患者さんのためなら、私はブラック企業と言われようとも、躊躇なく24時間365日対応する」―。アイテム数の多い医療機器は、医療従事者でもすべて使い方を理解しているわけではなく、救急搬送、緊急手術などで、製品に精通する流通業者が、急な呼び出しを受けることが多い。そのため、グーグルやヤフーなどで、医療機器流通業の会社名を検索すると、「ブラック」という有難くない“おまけ”が、自動的に表示されるケースが少なくない。
冒頭の発言は、ある医療機器流通業の幹部が自虐的に語ったものだが、彼らがブラックという風評を甘んじて受け入れ、胸を張ったのが、震災時の緊急対応だ。機器流通業者の団体、日本医療機器販売業協会(医機販協)は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の経験を踏まえ、「大災害時の対応マニュアル」を年1回改正しており、4月に発生した熊本地震でも、それに基づいた迅速な対応ぶりをみせた。医機販協の災害対応を指揮した森清一会長は、大地震発生を想定していない熊本県では、県庁職員でさえもパニックを起こす中、夜通し、八面六臂の活躍。医機販協の九州ブロック、熊本県の医機販協の責任者と連絡を取り、必要な対応を協議し、現場で不足する物資を調べて準備したうえで、島原半島から宇土半島(長崎ルート)へ、徳山(山口県)から国東半島(大分ルート)へ抜けることができるといった輸送ルートを見出し、滞りなく物資を届けた。厚労省も、現地で不足する医療機器はないと太鼓判を押す。医療機器流通業者が、“ブラック”という有難くない別称(蔑称)とはかけ離れ、自称する“医療のインフラ”としての役割を遺憾なく発揮したと言えるのではないか。
●平時の機器流通業には厳しい眼
このような震災対応時は別にして、平時の医療機器流通業者には、医療関係者から厳しい視線が注がれる場面が多い。とくに診療報酬の点数や、医療機器の公定価格(技術料)を決める中央社会保険医療協議会の席では、委員から医療機器流通業に、業界再編が進まず、非効率で高コスト体質といった、批判めいた指摘を浴びせられることがほとんどだ。冒頭で指摘した、緊急対応や、機器の在庫管理、適正な使い方を支援するといった、額に汗する彼らの活動は“当然のこと”であり、一瞥もされない。
機器流通に対する厳しい視線は、限られた医療保険財源の中で、医療費の総枠を増やすことが難しく、ステークホルダー間で、保険財源を取り合うという背景があるためだ。とくに財源規模の大きい医薬品が削減のターゲットとされるが、2016年度改定では、海外で流通する医療機器が、国内では高価格で流通しているとして、厳しい改革が断行されたことからも明らかだ。こうした厳しい改定のしわ寄せは、利益率、給与額は決して高いとは言えない流通業者の経営を圧迫する。
●経営体力なければ震災対応の継続は困難
もちろん震災対応として、医師をはじめとする医療従事者もボランティアとして汗をかいていることも事実だ。しかしこうした震災対応は、経営体力が十分で、余力がなければ継続は難しい。東日本大震災、熊本地震という不幸な災害を契機に、医療機器流通をコストとみるのではなく、医療を支えるインフラとして認めるような考え方が、医療界全体で醸成されても良いはずだ。国家資格を持つ医療従事者と、製品を提供するメーカーの狭間でもがく、“奥ゆかしい”機器流通業者を、まずはチーム医療の一員として迎えるような懐の深さを、医療界に求めたい。それが、すべての見直しの第一歩になるはずだ。
【MEジャーナル 半田 良太】