2017.04.03
投じた医療資源(費用)に対し、入院日数の短縮や生存年の延長などのベネフィット(効果)がどの程度上がったのか―。診療報酬点数や薬価、特定保険医療材料の公定価格を決定する、中央社会保険医療協議会で、費用対効果の視点を取り入れ、その結果を公定価格に反映させる検討が進んでいます。中医協では、費用対効果が低いと評価された医薬品、医療材料の価格を引き下げるツールとして活用する方向で議論を進めていますが、ここにきて首相官邸が、公定価格の引き下げだけでなく、引き上げを含めた費用対効果制度の創設を求めており、関係者の思惑は様々です。医療界を席巻する「費用対効果評価」に、今回、外科系学会100団体の連合体である外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が、診療報酬(手術料)点数の見直しに活用すべきと表明。低く抑えられてきた手術料を、費用対効果の視点で立証し、点数引上げを求めていくと宣言しました。
●複雑化増す診療報酬体系
手術料などの医療技術、診療報酬の評価は、医薬品や特材など比べると複雑です。診療報酬は、医師やメディカルスタッフの技術を評価するもの。医療機関の土地や建物代などのいわゆる箱モノから、人件費などのランニングコスト、医療機器などの購入など、様々な変数を横にらみしながら設定しなければなりません。
さらに、右肩上がりの経済成長を続けていた財政的に余裕のある時代には、大盤振る舞いした改定もなかったとは言えません。厚労省が考える医療提供体制へ移行させるための“アメ”として、あえて高めの診療報酬点数を設定し、政策誘導してきた事実もあるでしょう。そして近年は、長年のデフレによる景気低迷で、診療報酬全体の改定率がマイナス基調で、本来評価すべきものも、十分財源が充てられないという事態も出てくるわけです。そうした中で厚労省は、診療報を全体で見て、医療機関経営にマイナスとならぬよう腐心してきた結果、診療報酬は複雑化。個別点数がどこまで正確に積み上げられているのか、いないのかも分かりづらい状況になっているのです。
●エビデンスに基づく改定ツール 費用対効果
そうした中で注目されているのが、冒頭で指摘した費用対効果というツールです。投じた医療資源に対し、どの程度の治療効果をあげ、トータルの医療費をどの程度節約できたのか。こうした観点で製品の価格を見直そうという動きです。まずはコストの積算が比較的やりやすい、医薬品や特材などの製品から取り組む方向で、中医協が準備を進めていますが、技術料でも同様の視点を入れるべきと、学会が訴え始めたのです。その背景には、医療技術の進歩により、高額な医療機器が相次いで登場。「入院日数が短くて済む」「既存の治療よりも低侵襲」といったことから、「既存治療では難しかった自立生活や、社会復帰が可能になる」といったメリットを十分評価して訴えたのです。
●医療保険制度透明化の必須ツールも、整理すべき課題は山積
冒頭でも記載した通り、現時点では、関係者の思惑が交錯しており、費用対効果評価をどのように運用していくか、模索している段階です。仮に、費用対効果を根拠に基づく診療報酬(薬価、特材制度)にするために、点数の引き上げ、引き下げの両方に費用対効果評価を使うとすると、難しい問題も出てきます。
外保連は先日、弓部大動脈瘤を治療するステントグラフトシステム「Najuta」と、開胸手術を費用対効果で比較しました。トータルコストはNajutaが497万円、開胸手術630万円で、前者は入院日数、ICU滞在日数も短期間で済むにも関わらず、手術料(ステントグラフト内挿術)は約半分に抑えられているとして、点数の引き上げを主張しました。Najutaは登場からわずか数年のため、長期間の成績を検証する必要があるとはいえ、学会はまっとうな主張をしていると感じます。
一方、メーカー側からすると、「良い製品を開発し、費用対効果の高さが立証されたのだから、公定価格を引き上げてほしい」というのが本音でしょう。費用対効果評価議論は花盛りですが、関係者の思惑も様々。整理する課題も山積しています。一つ言えることは、多くの税金を投入する医療保険制度の透明化という観点からすると、費用対効果評価の本格導入は避けられないということだけです。
【MEジャーナル 半田 良太】