2017.11.01
日本は、原爆投下による世界唯一の被ばく国。2011.3.11発災による、福島第一原子力発電所での原子力事故で、核燃料が溶け落ち、大気中に放射性物質が放出されるなど、放射線や被ばくとの関係性はかなり濃いといえそうです。
放射線については、こと医療分野でも用いられていることは、周知のとおりです。とくに現代の医療では、治療・診断に必要不可欠なものとなっており、国民の健康維持・管理につながっています。そうした中で、不必要な医療
被ばくを防ぐための取り組みが、関係団体、政府などで最近、進んでいることを、今回、ご紹介したいと思います。
●医療被ばくは世界の6倍 まずは患者対策
日本は、CTの人口当たり設置台数が世界一であることは、周知のとおりです。当然設置台数が多いので、検査の回数も多く、結果、患者の医療被ばくは年3.87ミリシーベルト(2011年)で、世界平均の約6倍となっています。ただ、身近な診療所でもCT検査が受けられるため、がんの早期発見につながっているという指摘もあり、設置台数の多さについては、賛否が分かれています。設置台数如何にかかわらず、低被ばくで画像診断ができれば、患者にとって優しい医療につながることから、2015年6月に、医療被ばく情報ネットワークなど、関連する学会や団体などが、診断参考レベル(DRL)をとりまとめました。
●部位ごとの線量を規定するDRL 国の関与が今後の議論へ
DRLとは、画像診断をする部位ごとに、過剰な放射線照射とならぬよう、線量の参考値を設定し、実臨床の場で活用してもらうものです。医療機関ごとにCTなどの医療機器のスペックが異なるほか、患者の体形や病態なども様々なため、DRLはあくまで参考とされ、それを超えた線量を照射しても、問題ありません。今後の方向性としては、学会主導ではなく、欧州などのように、国が関与するかどうかということに議論が移ることになります。さらに、患者が一生涯で浴びた放射線量をカウントすることなども、将来的な課題とされています。厚生労働省も今年から、医療放射線の適正管理に関する検討会を立ち上げ、関係者間の議論を喚起しています。
●IVRなどの治療での被ばく 医療従事者の眼を守れ
DRLは、現時点では、あくまで“診断”参考レベルですが、治療をどうするのかという問題もあります。とくに、治療と診断を融合した技術が登場し、画像診断下で、カテーテルを用いた治療、IVR(Interventional Radiology)などが普及しております。IVRは低侵襲治療として患者からも歓迎されていますが、放射線の被ばく量は多いため、その適正管理は必要になります。とくに治療する医療従事者の被ばくも無視できないレベルとされています。医療従事者は、放射線治療の際、防護衣などで放射線を遮蔽しますが、眼の水晶体は専用の眼鏡をかけても、被ばく量が多く、対策を講じるべきとの指摘が相次いでいます。原子力規制庁も、この問題に着目し、厚労省の検討会と連動する形で、眼の水晶体の放射線防護検討部会を設置して、医療従事者の被ばく対策に乗り出しました。
●放射線医療のデメリットも注視すべき
医療分野では、被ばくというデメリットよりも、病気の診断や治療につながるというメリットが多いことから、線量管理については対策が、後手、後手になっていました。しかし、線量を適切にコントロールしなければならないことは言うまでもありません。患者や医療従事者の医療被ばくを最小限に抑えるための対策は、積極的に講じていくべきで、厚労省や原子力規制庁の動きは歓迎すべきといえるでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】