2017.12.01
医療機器、医療技術の進歩により、開腹、開胸手術などの侵襲を伴う治療の代わりに、内視鏡や腹腔鏡などによる低侵襲な治療が台頭しています。こうした低侵襲治療は、患者負担の軽減や入院期間の短縮といった、医療経済的なメリットが見込めるほか、高齢などを理由に、これまで外科手術できなかった患者への治療の道を拓くものとして、大きな期待を集めています。
●厚労省は10倍超の予算要求 シミュレーターなどでは技術習得に時間
ただ低侵襲治療は、「切開創が小さい」「術野が狭い」といったリスクを伴うため、医師には高度な技量が求められます。現在、手術シミュレーターや動物などを用いて技量を磨いているわけですが、実際の人間に用いるのとは勝手が違います。そこで厚生労働省は、亡くなった方の身体(献体)を使った「サージカルトレーニング」を拡充することで、医療安全を向上し、さらに減少を続ける外科医の確保にもつなげたい考え。来年度に10倍以上の予算を要求し、サージカルトレーニングを全国的に普及する方向で、財務省と折衝を続けています。
●12年から臨床医にも門戸開く
献体を用いたサージカルトレーニングは、医学生の解剖実習での実施に限定されていましたが、日本外科学会や日本解剖学会などが、医療機器、医療技術の進歩や、医療安全の観点を踏まえ、臨床医にも対象を拡大すべきと提案していました。ようやく2012年以降、学会が主導して策定したガイドラインに沿えば、臨床医でもサージカルトレーニングができるよう、運用が見直されました。
●外科学会が11月に財務省へ陳情 厚労省と学会が歩調合わせ攻勢
こうした状況を受け、厚労省は、サージカルトレーニングを実施する大学病院などに予算をつけていますが、今年度は実施している15施設中、6施設分に相当する4500万円しか確保できていません。来年度は、10倍超の
5億1000万円の予算を財務省に要求しています。今月16日には、日本外科学会も、財務副大臣に面会し、該当予算の大幅拡充に向けた要望書を提出。医療機器産業振興という追い風も吹く中、関連予算として押し切りたいという側面もあるようで、厚労省、学会の意欲も並々ならぬものがあるようです。
●地域偏在の解消と医療安全を視野
現在サージカルトレーニングを実施する15施設には地域偏在があります。具体的には、徳島、愛媛で実施している四国に集中する一方、近畿地方では取り組んでいるところは「ゼロ」。近畿で働く医師にとっては、技量習得の機会が少ないことは間違いありません。
厚労省は、予算確保により、①サージカルトレーニングを新規実施する大学への補助②既存15施設での研修内容の充実―を目指します。これにより、サージカルトレーニングを全国的に普及させ、低侵襲で先進的な医療技術を、多くの医師が身に着け、安全で質の高い医療を患者に提供することにつなげたい考えです。
【MEジャーナル 半田 良太】