2019.06.03
インスリンの分泌が不足してしまう1型糖尿病は、発症原因がわかっていない疾患です。比較的症状の軽い患者は、食事、運動療法に薬物療法を組み合わせて日常生活を送ることができますが、通常は一生涯、インスリンを注射し、血糖値を一定にコントロールする必要があります。インスリン治療は、自らインスリンを注射する注射療法ほか、医療機器の進歩により、持続的に皮下に留置したカニューレからインスリンを持続注入するインスリンポンプ療法があります。最近は、血糖値との相関性が高いといわれる間質液中のグルコース濃度(以下、グルコース濃度という)をリアルタイムで測定できる機能がインスリンポンプに搭載されるなど、目覚ましい技術革新の恩恵を、1型糖尿病患者は享受できるようになっています。
●機器の進化で予後優れる治療が相次ぎ登場
注射療法では、1日複数回、注射器やペン型の製剤でインスリンを注入しなければならず、痛みやわずらわしさに慣れなければなりません。インスリンポンプ療法の登場で、注射療法で抱えていた悩みがかなり軽減されます。具体的には、皮下に留置したカニューレから一定量のインスリン注入が可能で、食事後の追加インスリンもポンプ任せとすることができます。注射回数が減少し、血糖コントロールもよいというメリットを享受することができます。
さらにインスリンポンプに、リアルタイムでグルコース濃度を把握できる機能を組み合わせたSAP療法が登場。グルコース濃度が上がり基調なのか、下がり基調なのかというトレンドもリアルタイムで把握できることで、きめ細やかな血糖値管理が行えるといいます。
とくにリアルタイムでのグルコース濃度の把握ができる機能や、就寝中や無自覚性の低血糖に対するアラート機能なども登場しており、1型糖尿病患者の予後管理は、飛躍的に向上しています。ちなみにリアルタイムでのグルコース濃度を測定するだけの医療機器も相次いで登場しており、糖尿病予備軍などへの使用により、医療費削減につながるとの見方も出ています。
●SPA含むインスリンポンプ療法はわずか1割
とはいえ、こうした機器の恩恵に預かる、1型糖尿病患者は最大でも、全体のわずか1割程度にとどまっています。注射療法で十分とする一部の方を除くと、20歳まではインスリンポンプ療法、SAP療法を選択し、それ以降は注射療法に戻す患者が多いということがわかっています。つまりは「患者の自己負担問題」が横たわっているのです。
1型糖尿病患者は、20歳まで医療費の自己負担に助成が受けられるため、自己負担を過度に意識せず、インスリンポンプ療法、SAP療法を選択しやすいといわれます(小児慢性特定疾患医療費助成制度)。しかし20歳を境に、助成が終了すると、利便性の高さと自己負担の重さの間で、患者が揺れ動くことになります。
成人後も医療費助成を受けるには、1型糖尿病が「指定難病」にならなければなりません。ただ1型糖尿病患者数は約10~14万人で、指定難病の要件とされる全人口の0.1%程度以下(約12万人)を大幅に上回っており、難病の指定は難しそうです。
低血糖の防止や、良好な血糖コントロールによる合併症発症予防は、QOL向上にとどまらず、将来の医療費抑制にもつながると思います。便利で予後の優れる機器があっても、使用を、ためらってしまう、という現実があります。
難病などの医療費助成の枠組みの在り方や、公的医療保険でカバーする範囲をどうするか、喫緊に解決すべき問題と考えます。また昨今は、高額薬剤問題の登場を受け、公的保険でカバーする製品の公定価格を厳格化する動きも加速するなど医療施策に医療経済が影響を及ぼしてきています。機器もそうした動向に無関係とはいかないでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】