2019.05.07
大学病院など、一部の医療機関に限定して、新しい医療技術の安全性や有効性を検証してから、保険適用する
「先進医療」という仕組みがあります。粒子線治療(重粒子線、陽子線)などが有名ですが、2016年度以降、保険で使える適応症が拡大しており、先進医療を卒業しつつあります。先進医療では、こうしたがんなどの難治性疾患に対する医療技術が目立ちますが、実は最も費用をかけて実施しているのは、白内障治療に用いる多焦点眼内レンズです。多焦点レンズを用いた先進医療の費用は、17年7月から1年間で約156億円(約2.4万件)。先進医療の総額
約240億円の半数超を占めています。2020年度の診療報酬改定で、先進医療を継続するのか、保険適用とするのか自費診療とするのか、一定の結論が下されるとの見方が強まっています。
●多焦点レンズは眼鏡不要 QOL高いもごくわずかな患者に不具合
眼内レンズは、透明な水晶体が濁ってしまうことで、眼のかすみ、ぼやけ、光のまぶしさを訴える白内障患者に用いるもの。とくに高齢者に多くみられます。白内障治療では、1か所にピントを合わせる単焦点レンズが保険診療で使えますが、遠方、近方の2つに焦点を合わせる多焦点レンズは先進医療扱いとなり、安全性、有効性が確立するまでレンズ部分を患者に自己負担してもらっています。多焦点レンズはその名の通り、複数個所に焦点を合わせるので、術後に眼鏡を使うことがないというメリットがあります。ただ挿入後に夜間の光がまぶしさなどを訴える声がごく一部存在し、そのうちの数%で再手術することもあります。こうした不具合の原因を先進医療の中で検証していますが、先進医療を実施した11年間で、不具合患者を術前にスクリーニングすることが困難であることが分かり、「20年度の診療報酬改定で保険適用することは時期尚早」と、日本眼科学会などが主張しています。
●老眼部分を個室利用の“差額ベッド代”と同様の取り扱いに
では今後、多焦点レンズの取り扱いはどうなるのでしょうか。日本眼科学会が考えるベストシナリオは、保険診療と患者一部負担の組み合わせです。具体的には、①白内障治療部分を保険診療、老眼治療部分を自己負担とする
②老眼ではない45歳未満を対象とした年齢を区切った保険収載とする③個室などの利用で発生する差額ベッド代
(選定療養)などと同様の扱いにする―ことを思い描いています。①②については、いわゆる“混合診療”や“年齢を区切った差別”につながりかねない主張であるため、実現のハードルは高そうです。③については、一定の理解が得られる可能性があるとして、現在、厚生労働省に訴えている段階です。
●生命に直結しないQOL向上に医療費を割り振る余裕はない
私は強度な近視で、日常生活で眼鏡が手放せませんので、眼鏡フリーの魅力は痛いほどわかります。ただ医療の高度化で、難治性疾患への高額な治療方法が相次いで登場してくることが予想される中で、生命に直結しないQOL向上を目的とした治療に医療費を割り振れるほど、今の医療保険財政に余裕はありません。多焦点レンズを公的保険とするには、単焦点レンズと同等の安全性が担保されるまで待つべきなのは論を待ちません。そうしたことを勘案すると、多焦点レンズを差額ベッド代などと同様の取り扱いとするよう求める学会の主張は、「貧富の差で受けられる医療に差がつく」との批判もある中で一筋縄ではいかないでしょうが、一考の余地のある提案かもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】