2019.08.01
現在、石灰化した冠動脈の病変に対する低侵襲治療は、ダイヤモンドの粉末をつけたドリル「ロータブレータ」で硬くなった病変を削り、そこに薬剤溶出ステントを置くことで、狭くなった血管を拡げるという手法が一般的です。厚生労働省は、ロータブレータを安全に使ってもらうため、「一定水準以上の施設」に限定して、使用を認めていますが、この基準が時代にそぐわないため、本来、ロータブレータで治療すべき患者に用いることができず、再狭窄の発生が増えてしまったり、別のデバイスを使うことで、余分な医療費がかかってしまったりしているそうです。日本心血管インターベンション治療学会は、ロータブレータに対する、時代にそぐわなくなった過度な安全基準を緩めるよう、厚生労働省に働きかけています。
●血管内を削るロータブレータはPCIの3~5%
冠動脈疾患は、食生活などの生活習慣に起因することが多く、コレステロールなどが血管内部に付着し、狭くなることで血流が悪くなり、最悪の場合、心筋梗塞などにつながるとされています。そうした冠動脈疾患の治療は、狭くなった血管を風船で膨らませるバルーン治療や、筒状の薬剤溶出ステントを留置する治療といった、いわゆる低侵襲治療(経皮的冠動脈形成術=PCI)が主流となっています。ただ重症化症例では、石のように固くなってしまった石灰化病変がみられます。そうした石灰化病変では、ロータブレータで狭くなった血管の石灰化病変を削ってスペースを確保し、そこに薬剤溶出ステントを留置するといった工夫が必要になるのです。学会によると、PCIの3~5%が、ロータブレータなどを用いなければならない石灰化病変だといいます。
●心臓外科のバックアップは他院でもOK バイパス手術ゼロとのエビデンス
ロータブレータによる保険診療は、国内では約20年前から実施されており、石灰化病変に対する有効性は現在でも高いままだといいます。保険診療が開始された1990年代は、不測の事態が生じた場合を想定し、ロータブレータで治療をする医療機関に対し、開心術(外科手術)や、冠動脈、大動脈バイパス移植術を年30例以上実施している、というハードルを課しました。
ところが2013年から2年間、国内のPCI約41万件を調査。ロータブレータをつかった約1万3500件のうち、緊急手術はわずか2例。うちバイパス手術が必要な症例はゼロでした。海外では、ロータブレータによる治療を実施している医療機関で、自院での心臓外科によるバックアップは必須ではないとされており、緊急時に連携先の心臓外科に運ぶという運用が、世界的な潮流になっているそうです。
●年間5億円弱の医療費減につながる
学会では、緊急時の対応を依頼できる心臓血管外科を持つ施設を定めることを条件に、時代にそぐわなくなった、開心術(外科手術)や、冠動脈、大動脈バイパス移植術の年30例以上の実施という安全基準を、廃止してはどうかと提案。2020年度の診療報酬改定での安全基準の見直しを求めていきます。ただ冠動脈石灰化病変に対するロータブレータを用いたPCIは、高度な手技であることには変わらないとして、2年間の症例数が10例未満となった場合には、ロータブレータのトレーニングを再受講するよう、底上げを求めることも求めています。
こうした安全基準の見直しを行うと、ロータブレータの実施施設は441から697まで拡がり、医療の均てん化につながると指摘。さらにロータブレータが使えるようになることで、再狭窄による再治療などにかかっていた年間
約4億8000万円の医療費の削減につながると試算しています。
安全で高度な医療を国民に提供するという理念は堅持しなければなりませんが、時代にそぐわなくなった過度な安全基準をいち早く見直す柔軟性は必要だと思います。
【MEジャーナル 半田 良太】