2019.09.02
“梅雨寒”が続いた7月から一変し、8月に入ると連日で、35度を超える猛暑日が続いています。それにシンクロしたわけではないでしょうが、為替市場も乱高下を繰り返しています。8月1日に1ドル109円31銭だったのが、
12日には1ドル105円01銭となり、わずか10日あまりで約4円の円高が進みました。一般的な輸出型産業は、円高により利益が目減りすることから、大幅な為替変動には神経をとがらせていることでしょう。実は、公的保険制度下で経済活動を続けている医療機器メーカーは、他産業以上に為替変動のダメージを受けるのですが、今回のコラムでは、そのカラクリを解説したいと思います。
●事の始まりは、「内外価格差」
医療機器のうち、手術などで用いる特定保険医療材料は、製品ごとに国が価格を定めています。とくに海外製の特材が多いことから、その値付けでは、海外での販売価格を参照して設定される仕組みとなっています。
皆保険制度を敷く日本では、全国どの医療機関でも、一定水準以上の医療を受けることができるメリットがある一方、海外のように医療機能の集約化が進んでいないため、特材の使い方のサポートや配送などを、きめ細やかに行わなければならないため、海外の価格よりも国内の価格のほうが高い、「内外価格差」が発生すると言われています。
そのため厚生労働省は、特材の内外価格差是正に向けて、-(1)保険適用の時点(2)2年に1回実施する販売価格に基づいた価格引き下げ時点-で、国内価格が海外価格の1.3倍を超えないようにするルール(現在)を採用。1990年代に2~3倍近かった内外価格差を、1倍台まで縮小しました。さらに製品によっては、国内価格のほうが海外価格よりも安い特材も、相次いでいる状況にあります。
●為替変動は、価格引き下げのみに適用
このように内外価格差が是正傾向にある中で、併せて実施される“為替レートに左右される価格見直しルール”の存在が、医療機器メーカーの頭を悩ませているといいます。とくに(2)については、その時点で、円高になったことだけを理由に、1.3倍ルールに抵触、価格が引き下げられる可能性があるのです。一方で、円安になった場合には、価格が引き上げられるルールは存在しないため、為替変動のデメリット部分だけを医療機器メーカーが負わねばならない構図です。
少子高齢化の進展で、今後社会保障費の増大が見込まれ、公的保険制度の持続性に疑問符がつけられていることは、ご承知の通りです。そうした中で、海外よりも高い特材の価格を適正化するという方向性は、一定の合理性があると思います。
ただその一方で、世界に冠たる皆保険制度、集約化が進まない医療提供体制といった、日本の特性を踏まえ、連綿と続く内外価格差の是正という政策を漫然と進めるのではなく、どのくらいの内外価格差であれば容認できるのか、本質的な議論に立ち戻る必要があるのでしょう。
●為替変動の影響を相殺する業界提案を次期制度改革で検討
2020年4月に実施する、次期特材制度改革に向けた議論で、医療機器メーカーは、「予期せぬ為替変動は、企業経営の予見性をますます困難なものとしている」として、企業努力では如何ともしがたい為替の影響を極力回避する仕組みを提案しています。簡単に言うと、為替変動のメリット・デメリットを可能な限り相殺する仕組みの提案なので、一考の価値はあると思います。
【MEジャーナル 半田 良太】