2019.11.01
一昔前、海外で使われている製品が、日本で薬事承認されていないため使えないという、ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグが社会問題となっていました。厚生労働省や医薬品医療機器総合機構が改善を続けた結果、こうした“審査上のラグ”は鳴りを潜めつつありますが、新たな医療技術の登場に伴い、“保険上のラグ”が、しばしば顔を覗かせることがあります。イタチごっこではありますが、厚労省はこうしたラグ解消にも目を光らせ、たゆまぬ改善を続けています。
●パネル検査の登場で、より効果のある患者への薬剤投与が可能に
抗がん剤は、疾病部位に応じて単に同じ薬剤を選択する時代から、遺伝子変異の有無などに応じて、効果の期待できる患者に特定の薬剤を投与する時代に変遷しています。これは、患者の遺伝子変異を、より早く、より安く実施できるようになった、技術革新の賜物です。高額な薬剤を効果のある患者に投与できることから、医療経済という観点からも、ひっ迫する医療保険財政にも貢献できるといえそうです。
●遺伝子解析プログラムは、体診でなく医療機器
従来、抗がん剤などに用いる体外診断用医薬品は、これまでにない画期的な製品であっても、厚労省の審議会
(中央社会保険医療協議)が認めた翌月から、保険適用されていました。そのため、新薬が年4回(2、5、8、
11月)発売されても、ラグなくセットで保険診療として使うことができていました。
しかし、医薬品の適応判定を目的として実施する、パネル検査などの遺伝子変異解析プログラムは、ソフトウェア的なものが多く、体外診断用医薬品としてではなく、医療機器として、保険上の取り扱いを審査しています。そうなると、革新的な新医療機器の保険適用が年4回(3、6、9、12月)となるため、薬価収載された抗がん剤へのアクセス制限が起きているのです。
●薬剤の投与判定に用いる遺伝子変異 特例で翌月に保険適用へ
とくに抗がん剤については、疾患の重篤性や、時間の経過によって患者の予後に悪影響を生じてしまう可能性があるとから、“保険上のラグ”で使えないといったことは避けねばなりません。厚労省は、来年4月から制度を見直し、医薬品の適応判定の補助に用いる医療機器について、「特例」として、体外診断用医薬品と同様に、中医協での決定の翌月に、保険適用してはどうかと、提案しています。
医療の高度化により、制度創設時点では想定しないような技術革新や、新たな検査方法、ヒト由来の細胞などを
用いた再生医療製品などが、相次いで登場しております。せっかく誕生した新たな技術が、保険手続きの関係で、
迅速に使えないのでは寂しい限りです。時間外労働が嵩む厚労省の方を日ごろ、目にしているので無理を言うつもりは毛頭ありませんが、患者視点でいえば、革新的な製品の保険適用時期をすべて同じにして、ラグなく使えるような環境整備をお願いしたいものです。
【MEジャーナル 半田 良太】