2020.01.06
新たな医療技術、革新的な医療機器の登場で、持病を持ちながら、生活を送ることができる、便利な世の中になりました。とくに急性期医療では、ペースメーカーや、金属製のステント、クリップなどを体内に留置することで、致死的な状況を回避し、日常生活を送れるようになります。骨折部位を固定するプレートなども、いち早く日常生活への復帰に貢献しています。こうした治療が当たり前になると、新たな問題がクローズアップされます。それは、体内に植え込んだ医療機器が、MRI検査の妨げにならないかという問題です。
●ペースメーカーの患者 75%が別の疾患でのMRI撮影が必要に
これまで、体内に留置した医療機器は、MRI検査の妨げになるとして、別の疾患の可能性が生じていても撮影できないと認知されてきました。とくにペースメーカーを留置した患者は、「生涯のうち75%がMRI検査の必要性が生じる」という調査結果もあり、脳梗塞といった高齢化に伴う疾患リスクに対応しきれませんでした。なぜかというと、MRIが発する磁場により、体内の医療機器が発熱する、ペースメーカーのプログラムが誤作動するといった問題を起こしかねないと危惧されていたためです。
●MRI撮影対応かどうか 22年からメーカーに情報提供義務付け
医療機器メーカーは改良を続け、ここ数年、体内に留置していてもMRI撮影が可能な製品を相次いで開発し、市場に送り出しました。これを受けて、厚生労働省は2019年8月、メーカーに対し、①MRI検査に対応している
②一定の条件を満たせばMRI検査が可能である③MRI検査できない④MRI検査できるか、対応する試験をしていない―という4つについて、添付文書に記載することを義務付けました。完全義務化は3年後となります。
●留置した医療機器の特定に苦慮する放射線技師
実は、これにより体内に医療機器を留置していても、MRI撮影が可能になるか簡単に判断できるようになるわけではありません。そもそも、古い医療機器は対象外です。また、電子カルテには、過去に患者に留置した医療機器を記載する機能がなく、一定期間を過ぎてから、別の治療でMRI撮影ができるかどうかわからないというケースは相当数に上り、撮影を担当する診療放射線技師を悩ませているといいます。さらに、地域完結型の医療が進み、紹介元でどのような機種の医療機器を植え込んだのか、特定するのに、多大な労力、時間がかかることも想定されるといいます。
●MRI撮影の可否を検索できるシステムがスタート
そこで、熊本大学の藤原康博准教授とメディエ社が、過去、医療機器を体内に留置した患者が、MRI撮影できるかどうかを判断するための検索システム「医療機器のMR適合性検索システム」を開発、情報提供をスタートしています。
検索システムは、永久・長期的に体内に留置する可能性のある医療機器の一般的名称396種を対象に、添付文書
約5,600をデータベース化。MRI撮影に対応しているかどうかや、1.5テスラなら可能といった、設定された撮影条件などを、メーカー名や製品名、植え込み部位などから検索できるものです。このシステムのユーザーの93%は
診療放射線技師ですが、ほぼすべての方が、MRI撮影できる医療機器かどうかを検索するための「時間の短縮」「精度の向上」を実感しているというアンケート結果が出ています。
●腹膜透析用カテーテル、静脈留置針など永久留置以外のDB拡充へ
ユーザーからは、「販売中止となったステントなどの情報」「不適合のデバイス一覧」「全般的に情報が乏しい
整形外科インプラントの拡充」といったデータベース拡充を求める声が寄せられているといいます。まずメディエ社では、「患者には体内外にかかわらず、様々な医療機器が装着されている」として、腹膜透析用カテーテル、心電用電極、創傷被覆材、静脈留置針、放射線源などのデータベース化に取り組むとしています。
私がメディエ社のコラムを執筆する利害関係者だから主張するわけではありませんが、こうした検索システムの存在は、公益性の高いことだと思います。検索システムは無料ですので、医療従事者の方々にはぜひ活用してもらい、患者のために役立ててもらいたいと存じます。
【MEジャーナル 半田 良太】