2020.02.03
脳梗塞の治療は時間との闘いです。いかに血管を塞ぐ血栓を取り除き、脳への血流を再開するかで、その後のQOL(生活の質)が左右されるといっても過言ではありません。脳梗塞に対する急性期医療は、発症早期からの「投薬治療」や、カテーテル等「血栓を除去する医療材料」の登場で、重い後遺症を残さず治療できる時代に突入しました。ただ不幸にも、発症早期からの治療が間に合わないと、死亡につながることもありますし、一命をとりとめたとしても身体的な麻痺などの重篤な後遺症が残るケースも数多く存在します。麻痺が残ると、機能を完全に回復させることは困難で、早期のリハビリが重要になりますが、今年4月から、リハビリの効率を上げる、新たな医療機器が、公的保険で使えるようになる可能性が高まっています。
●ロボットや電気刺激のリハビリの公的保険「提案は妥当」 厚労省
日本リハビリテーション医学会などは、厚生労働省に対し、脳卒中や脊髄損傷による、手(上肢)や脚の麻痺に対し、これまで理学療法士や作業療法士が行っていた運動機能訓練に、ロボットや電気刺激機器を加えた場合、新たに診療報酬点数をつけてほしいと提案しました。ロボットや電気刺激機器を使った方が、麻痺した機能が回復できるという臨床データが示されてきていることから、公的保険で評価してほしいと要望したのです。
●医療費抑制効果は年40億円と試算 学会
厚労省の専門家会議は、この提案に対し、「妥当性が示されている」と結論付け、今年4月の診療報酬改定で、何らかの措置をとる方向になりました。
現在、脳卒中患者に対するリハビリは、医療従事者のみが実施した場合でも、これらのロボットや電気刺激機器を使った場合でも、医療機関の収入は同じ。学会は、1回(20分)のリハビリに対し、ロボットや電気刺激機器を使った場合に、200~500円の上乗せを求めています。これにより、現在よりも年間約20億円の医療費がかかるとしていますが、機能回復につながるため、これまで必要だった治療用装具が、軽症用のもので済むようになるほか、入院期間も短縮するとして、トータルでは約40億円の医療費削減効果につながると試算しています。
●麻痺の残る部位の回復につながる可能性
とはいえ、少子高齢化の進展で、日本の医療保険財政はひっ迫していることから、学会の提案通り、200~500円の上乗せが認められるのかは不透明です。ただ、現在の脳卒中のリハビリは、医療従事者による補助、訓練に頼っているため、質にバラツキがあり、数値化も難しく、正確に反復訓練させにくいといった課題も指摘されます。そのため、障害の程度に合わせた運動の種類やアシスト量をセレクトでき、訓練の難易度を調整できるロボットや、関節の可動を補助する電気刺激を、公的保険で受けたいというニーズは少なくないでしょう。
とくに現在のリハビリは、麻痺の残る身体の機能回復を促すよりも、動く手脚の機能をフルに使って「カバーする」ことに力点が置かれているとされており、新たな機器は、自力で歩きたい、自立度を高めたいといった、高いQOLを取り戻したい患者にとって、福音となるはずです。
●上肢用ロボットはグローバルでまだ保険適用されず
海外の保険適用の状況をみると、脚用の歩行訓練用ロボットと、電気刺激装置は一部で認められていますが、上肢用のロボットは未対応です。上肢用のロボットは日本製の製品もあり、産業振興の面でも公的保険の適用はプラスに働くはず。4月に幅広い患者に、公的保険で使えるようになることを期待しています。
【MEジャーナル 半田 良太】