2020.07.01
薬物療法(医薬品)、外科療法(特定保険医療材料)に続く、第三の治療法として、スマートフォンのアプリケーションを用いたデジタル療法(治療用アプリ)という新たなアプローチが、近々登場します。厚生労働省の審議会が6月19日、慶応大とCureAppが共同開発した、国内第一号の治療用アプリケーションとなる「禁煙治療用アプリ」の製造販売を認めました。CureAppは、正式な承認が下り次第、保険適用を目指す方針を掲げており、年内には保険診療として、「医師が患者にアプリを処方する」という医療行為の実施が、現実味を帯びています。
●禁煙標準治療の受診回数は3か月で5日 アプリが治療空白を埋める
ニコチン依存症患者は、ニコチンが切れることで、イライラや集中力の低下などの離脱症状を伴う「身体的依存」と、喫煙の習慣化や条件反射などで再びタバコを吸ってしまう「心理的依存」にさいなまれます。前者は処方された禁煙補助薬で対応、後者は診察時の医師による介入で治療を進め、禁煙を目指します。ただ標準治療(約3か月)では、医療機関への受診機会はわずか5日。禁煙補助薬を使いつつ、次回の再診まで2~4週間の「治療空白」をどのように過ごすかが、“卒煙”に向けた鍵を握ります。この「治療空白」は、禁煙継続に立ちはだかる高いハードルとなっていましたが、そこに禁煙治療用アプリが登場したわけです。
●標準治療+治療アプリで禁煙継続率向上が立証
禁煙治療用アプリの使い方です。患者サイドは、スマートフォンにダウンロードしたアプリから、日々の体調、服薬情報を含めた治療経過などを入力するほか、IoTデバイス「COチェッカー」を通じて呼気のCO濃度も送信します。医師は、患者からの入力データなどを受け取り、診療補助に役立てるほか、医学データを入力し、クラウド上に双方のデータを集約します。
このデータをアプリが自動解析し、それぞれの患者に、医学的なエビデンスに基づく専門的な心理療法、服薬・通院管理、コーチングなどを随時配信することが可能になり、患者の治療空白を埋め、行動変容を促すのです。実際に、臨床試験でも、標準治療に治療用アプリを追加した場合、禁煙継続率が高まることが立証されています。
●海外の治療用アプリは、既存治療とそん色ない評価
CureAppの禁煙治療用アプリは世界初ですが、海外ではすでに、糖尿病やCOPDなどに向けた治療用アプリが存在し、「従来の治療法とそん色のない保険償還」を受けているといいます。保険の仕組みは日本と異なりますが、治療用アプリが日本でどのように評価されるのか、禁煙治療用アプリはその試金石となります。
わたしは禁煙成功のエビデンスの存在や、医療費抑制につながるのであれば、一定の評価をしても差し支えないと考えます。しかし、診療報酬を審議する中医協の一部は、過去の議論で、ニコチン依存症を保険診療とすることに後ろ向きだったことも事実。第三の治療法であるデジタルアプリと、それを提供する新産業が日本に根付くのでしょうか。また治療用アプリビジネスは、大きな産業に育つ可能性があるのでしょうか。産業振興と財政規律という二律背反の課題を突き付けられる厚労省は、どのような決断を下すのでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】