2020.09.01
国産初の手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」(メディカロイド)が、満を持して発売されます。手術支援ロボットといえば、前立腺がんなどで保険診療が認められた「ダヴィンチ」などが有名ですが、ライバルの「hinotori」が登場。これ以外にも、人工関節置換術、てんかんの治療、カテーテルを使って狭くなった冠動脈を広げるPCIに用いるものなどで、手術支援ロボットが相次いで登場します。今回のコラムでは、国内に登場した主な手術支援ロボットの紹介と、保険診療の状況などについて整理したいと思います。
●手塚治虫氏の「火の鳥」から名称 まずは泌尿器科での保険診療目指す
自動車の組み立て工場などで活躍する産業用ロボットは日本企業のお家芸ですが、こと医療分野に眼を移すと、不具合が発生した時のリスクを恐れてか、国産の手術支援ロボットは見当たらず、「ダヴィンチ」の市場独占が続いていました。そこで産業用ロボットを手掛ける川崎重工と、検査・診断分野で名をはせるシスメックスの共同出資会社メディカロイドが満を持して、国産初の手術支援ロボット「hinotori」を発売することになりました。
実際に手術を行うアームは、ヒトの腕に近い、小回りの利くコンパクトな設計とし、助手の医師との干渉を防ぐなど、随所に工夫を凝らしたといいます。そもそも「hinotori」という名称は、医師免許を持つ漫画家の手塚治虫氏の「火の鳥」から採用したといい、手塚プロダクションが、「人に仕え、人を支えるロボット」というコンセプトに賛同し、名称使用を許可したそうです。今後は、泌尿器領域での保険診療を目指すことになり、対象となる疾患領域を拡大していくとしています。
●ロボット支援専用の膝関節材料誕生で再手術減に期待
現在人工股関節・膝関節全置換術に限定して保険診療で使用可能な手術支援ロボット「Makoシステム」(日本ストライカー)が、9月から膝関節の部分置換術でも保険診療として使えるようになりました。これと歩調を合わせる形で、「Mako専用」の部分置換に用いる特定保険医療材料(特材)も登場します。
手術支援ロボットMakoはコンピュータで正確に制御されており、これまで難しかった骨の曲面切除が可能です。ロボット専用の特材を組み合わせて使うことで、骨折リスクの低減や術後の痛みが軽減につながると期待され、再手術までの期間を延長することが見込まれるということです。
●難治性てんかん治療のロボット「ROSA」も保険診療
また今年4月からは、難治性てんかん治療として手術支援ロボット「ROSA」(ジンマー・バイオメット)を使い、頭蓋内電極を植込むことができるようになりました。これまでの頭蓋内電極植え込み術では、開頭して硬膜下にシート状電極を張り付けるため侵襲性が高く、また脳深部電極の刺入位置を決めるのに時間がかかり、そのため十分な治療効果が得られませんでした。外科医のみによる植込み術に比べ、ROSAを併用することでは正確で迅速に作業できることから、治療効果が高いとして、新たな保険診療として認められました。
●血管内治療もロボットが登場 術者の被ばくが95%軽減
血管内治療分野でも、手術支援ロボットが登場しています。カテーテルを使って狭くなった冠動脈を広げるPCIを、遠隔操作で実施できる手術支援ロボット「CorPath GRXシステム」(コリンダス社)です。コリンダス社を2019年に買収した独シーメンスの日本法人、シーメンスヘルスケアは、「若いドクターでも、高いスキルのPCIが可能」「へき地などのリモートでの治療は大きなメリットになる」としています。PCIでは、X線撮影で、詰まった血管を確認する際、術者の被ばくなどが問題視されていましたが、「CorPath」を使うと、被ばく量を95%低減できるといいます。今後、新たな保険診療点数の設定を目指す考えだといいます。
●保険診療では費用に見合う効果が必要
革新的な技術を駆使したロボット支援手術の登場は、患者や医療従事者にとって福音となります。そして産業振興の観点から、国内企業の活躍も期待されます。
しかし、ロボットですからその費用は高額。病院もおいそれ、とは導入できません。そこでロボット支援手術の普及を促進するために特に新たな保険診療として、高い評価をする場合には、既存の治療よりも、有効性や安全性が認められたものに限定してスタートすべきという事は、論を待たないでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】