2020.10.01
アップル社が発売するApple Watchに搭載された、心電図アプリと、心拍数通知プログラムが、9月4日に医療機器として認められました。すでに米国では医療機器として流通しておりましたが、国内で認められたことで、健康意識の高い方々向けのウェアラブル端末として、改めて注目を集めそうです。
日本医療研究開発機構(AMED)では、国民の健康・医療への意識の高まりと、センサ、IT技術の進展を受けて、医療・ヘルスケア領域でのウェアラブル機器の応用が進んでいると分析。新規参入を目指す企業に対する手引きとして、「医療・ヘルスケア分野におけるウェアラブル機器開発の基礎知識」という冊子を3月に公表しています。今回のコラムでは、「基礎知識」の紹介を中心に、ウェアラブル端末開発の現状や、こうした市場がどのように推移するか、解説していきます。
●不整脈を漏れなく検知するものではない
冒頭のApple Watchは、不整脈の診断に欠かせないホルター心電図のように、24時間心電図を記録するものではなく、「あくまで補助的なもので、単独で診断に用いることができない」「不整脈を漏れなく検知するのではなく、不規則な心拍の発生を日和見的(opportunistically)に検知する」ものという位置づけとなります。
●ミツフジ 心電図データ把握のシャツ型電極を展開
心電図関係では、ウェアラブル端末との相性がよいのか、手首で計測するApple Watch以外でも様々なものが登場しています。
「基礎知識」では、西陣織工場を祖業とするミツフジを紹介。2019年から、「シャツ型電極」を医療機器として発売しています。
ナイロンの糸に無電解メッキで銀をコーティングした銀メッキ繊維を用いることで、皮膚に対する刺激が小さく、軽量で柔らかいシャツとして、日常生活で心電図測定が可能。開発責任者は、「近い将来には24時間365日心電データを取り続けることが可能な高い精度と耐久性を持つ導電性繊維を武器に、疾病の予防・予知といった医療事業を拡大して従来事業を超えることを目指しています」とコメントを寄せています。
●東レ 心電図計測の着脱型電極も展開
同様に東レも、導電性高分子をナノファイバー生地に含侵させた機能素材「hitoe」を用いて心電を計測できる、「hitoeウェアラブル心電図測定システム」(電極、リード線、記録器)を展開しています。ウェアラブル端末に相当する電極は、ランニング型の着脱式のもので、ナノファイバー生地のため、通常の衣類と違って皮膚との密着感が高く、長期間の着用でも肌がかぶれることはないという優れモノです。
さらに東レは、「hitoe」を、医療機器以外の様々な用途に活用。「家庭洗濯100回後にも心拍数計測できる」と謳うシャツやベルトも展開しており、工事現場や長距離移動のトラック運転手、スポーツの分野などで、事故予防やコンディション管理などの用途を提案しています。
●ウェアラブル端末を含めたヘルスケア産業の市場は30兆円超に
今回紹介したウェアブル端末は、公的保険で使われるケースもあるかもしれませんが、多くは、公的保険外のサービスとなる可能性が高いと思われます。経済産業省は、健康、予防、介護者の生活支援などの公的保険外のヘルスケア産業の市場を、25年に33兆円になると推計しています。この33兆円市場に、ウェアラブル端末も含まれることになります。
現在、公的保険(医療費)は、年間40兆円を超えています。高齢化社会を踏まえ、政府は医療費が急増しないようにコントロールするはずですので、そこで期待されるのがヘルスケア産業の市場となります。日本は国民の健康意識も非常に高いお国柄ですから、今後、ウェアブル端末の開発競争は間違いなく加速していくでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】