2020.11.02
公的保険で使用する医療用医薬品、特定保険医療材料(特材)は、国が公定価格を決めております。その公定価格をベースに、流通業者と医療機関が交渉し、購入数量の多寡などの取引条件によって、一定の値引き価格で販売されます。
現在、国が定める薬価、特材価格は、原則として2年に1回の頻度で、値引きした販売価格に合わせる形で、公定価格を引き下げています。政府は、患者負担のさらなる軽減を図るため、医薬品の販売価格については、2021年から2年に1回の価格改定の頻度を、1年に1回とする方向で議論を進めております。しかし特材価格については、
21年からの毎年調査・改定を実施するかどうか、まったく議論しておらず、宙に浮いたまま。おそらく時間切れで、2021年4月からの実施は見送りの公算が大きいと思います。
●労多くして益少ない、特材価格の毎年調査・改定
特材は、約20万の製品と膨大なアイテム数を誇り、医療用医薬品の約1万6000製品の10倍以上という状況。その一方で特材の市場規模は、医療用医薬品の10分の1程度で、約1兆円にとどまります。
少量多品種という特性のため、全国でどの程度の販売価格なのか、ブレなく把握するため、医薬品よりも5倍の
期間をかけて価格を調査しなければならない一方で、市場が小さいため、確保できる財源規模は医薬品と比べて
10分の1程度しかありません。つまり特材価格の毎年調査・改定は、「苦労する割には効果が少ない」と指摘されているのです。
●特材の毎年調査・改定議論は一度も行わず
政府の経済財政諮問会議は、予算編成にあたっての基本方針(いわゆる骨太の方針)を策定しますが、この中に、「薬価の毎年調査・改定」という言及はあれど、特材については触れられておりません。厚生労働省(以下、厚労省)は、薬価の毎年調査・改定の議論を最優先課題に位置付け、その結論が出るまで、特材の取り扱いについて積極的な議論をしないというスタンス。つまり厚労省も、特材価格の毎年調査・改定は、「労多くして益少ない」と判断しているという証左と言えるでしょう。
●機器業界にステークホルダー説き伏せる気概を見せてほしい
筆者も、特材価格の毎年調査・改定を見送ることには大賛成です。なぜなら、上記のように医薬品と異なる少量多品種で、調査の主体となる流通業者に過度の負担を負わせることになるからです。さらに手術などの際、特材の提供以外に別途必要になる機器の持ち込みや、必要に応じて手術に立会うといった、「適正使用支援」という本来業務にも、支障をきたすと考えるからです。
しかし、厚労省や医療機器業界は、こうした実情をステークホルダーに正しく理解・把握してもらったうえで、粛々と毎年調査・改定の見送りを決める必要があったのではないかとも思うのです。
少子高齢化の進展で、厚労省は医療費の削減圧力を常に受けております。特材価格の毎年調査・改定についても、「労多くして益少ない」、「本来業務に支障をきたす」と、各種ステークホルダーに訴えたとしても、歳出削減圧力にあらがえない可能性は否定できません。こうした環境下での厚労省の対応を批判する気はありませんが、次代の日本経済けん引役として期待されている業界には、正攻法でステークホルダーを説き伏せるような気概を、見せてもらいたかったという気持ちも払しょくできません。
【MEジャーナル 半田 良太】