2021.01.04
爪水虫治療薬の後発医薬品に、睡眠導入剤の成分が混入したことで、死亡事例が発生し、世間を騒がせています。医薬品や医療機器、体外診断薬に何らかの不良・不具合が生じた場合、製造販売業者は行政への報告が義務付けられるほか、健康被害などの影響を勘案し、製品の自主回収に踏み切ることがあります。爪水虫治療薬の事例が目立って報道されていますが、今月に入って医療機器も死亡につながりかねない自主回収が2件重なりました。このコラムでは、医療機器のイノベーションという光の部分に強くスポットを当てることが多かったのですが、今回は安全性に焦点を当て、機器の自主回収の現状を解説したいと思います。
●医療機器の自主回収は微増傾向も重篤なケースは低位安定
医療機器の自主回収について、年度ごとの推移をみると、2017年度は398件、18年度411件、19年度451件と、ここ3年では微増傾向を示しています。ひとことで自主回収と言っても千差万別です。厚生労働省は、健康に与えるリスクごとに3分類しています。具体的には、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る「クラスⅠ」、場合によって治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある「クラスⅡ」、健康被害の原因となるとはまず考えられない「クラスⅢ」で、言うまでもなく最も問題になるのは「クラスⅠ」の報告です。
それでは医療機器の「クラスⅠ」の自主回収件数はどうなっているのでしょうか。17年度7件、18年度3件、19年度5件と1桁台で推移、そして20年度は12月21日現在で、今月相次いだ2件の報告のみとなっています。件数としては比較的、低位安定といったところでしょうか。
●完璧な製品は不可能 企業努力でエラーゼロを目指せ
自主回収の定義を整理すると、①製造販売業者などが製造、販売した製品を引き取る「回収」②医療機器を修理、改良、調整、廃棄、監視する「改修」③患者の体内に植え込んだものを摘出せず、患者の経過を観察する「患者モニタリング」―に大別できます。
特定保険医療材料を含めた医療機器は、高精細な緻密な製品も多く、治療や画像診断に用いる大型製品はまさに電子・電気機器。電気製品や車のリコールと同じで、どんなに注意を払ってもエラーは発生するので、企業努力で限りなくゼロに近づける努力を期待したいです。
●体内植込み型機器の自主回収は患者へのダメージが深い
しかし、今回問題になった爪水虫治療薬の睡眠導入剤の成分混入や、今年12月の医療機器のクラスⅠの自主回収
1件は、決められた手順を守らない、包装に表示された製品規格と、実際の製品規格が異なるといった単純ミスに起因するもので、少し種類が異なるものです。
とくに医療機器については、一度体内に留置すると、後になって取り出すことが困難なため、より完成度の高い製品が求められます。今回の自主回収も「患者モニタリング」となり、最適なサイズではない製品を、体内に留置し続けることになります。
私自身、数多くのミスをするので、人様を批判できる立場にありませんが、こうしたヒューマンエラーはダブルチェック、トリプルチェックで防げるはず。製造販売業者には、なぜこうしたミスが起きたのか、原因究明と再発防止が欠かせません。
【MEジャーナル 半田 良太】