2021.02.01
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、国内でも2回目の緊急事態宣言が出されました。国内では、東京、神奈川、千葉、埼玉に宣言が発令され、現在11都府県まで広がりました。さらに欧米では、感染が猛威を振るい、感染者数、重症者数、死亡者数とも国内の比ではない惨状。ワクチンの開発、接種が始まりつつあるのは一筋の光ではありますが、世界的にコロナが収束し、平穏な日常を取り戻すには、まだまだ時間がかかりそうです。
国内でも、外出自粛や病床不足、従事者の疲弊などが取りざたされておりますが、いわゆる第1波の際に叫ばれた、「人工呼吸器の不足」などに至った医療機器の安定供給・確保についての構造的な問題は取り残されたまま。政府も、恒久的な対策に向けて本腰を入れる時期に差し掛かっているのではないでしょうか。
●人工呼吸器は9割が海外依存
第1波が襲来した際、人工呼吸器の不足がマスメディアを中心に取り上げられました。この時には、医療機器メーカーが自動車、電機産業が増産をサポートするなどして乗り越えたわけですが、不足につながった構造的な問題は解決されないままです。人工呼吸器は、重症用、軽症用、小児用など用途が細分化されており、ICUで用いる重症用のものは数百台あればニーズを充足するとされています。つまり、市場規模が大きくないため、平時から大手国産メーカーは“うまみ”がなく、中小企業が本業にするには“物足りない”規模感なのです。その結果、海外への依存度が9割に達し、世界的パンデミックが発生して必要になった場合、海外製品が国内に入ってこないという状況に陥ったわけです。
●商売としての“うまみ”がないため安定供給に支障
高度な医療機器以外にも、単価の安い基礎的な医療機器が不足したともいわれています。処置や手術に当たり前に使う医療機器は単価が安いことから、製造コスト面で割に合わないことから、海外に製造拠点を移転したため、輸入に頼らざるを得なくなりました。航空便が激減したことで、こうした医療機器の輸入が滞る事態が生じ、医療機器の安定供給を脅かしました。
この2つの事例を振り返ると、国内企業で製造技術は持っているにもかかわらず、商売としてのうまみがない、少ないため、製造しない、拠点を海外に移すということにつながっているわけです。
●国家備蓄の在り方を検討する時期
この解決に向けて、医療機器業界は国家備蓄の必要性を訴えています。また基礎的な医療機器の生産拠点の国内回帰できるような、補助金や医療保険上での下支えなどが求められています。
とくに国内機器業界は、「補助金という金銭的問題だけで事業継続は難しい」として、国産品を増加させるため、官民が一体となった第三セクターなどをつくり、備蓄に適した業界標準医療機器の仕様を整えて生産し、備蓄してはどうかと提案しています。感染症などのパンデミックが起こらなかった場合、一定期間経過後に備蓄品が旧スペックになってしまった場合、JICAなどを通じて発展途上国に供与することを検討してはどうかとも述べています。
さらに、基礎的な医療機器は、革新的な製品ではないため、特定保険医療材料であれば単価が安く、公定価格がつかない場合には医師の技術料の中に組み込まれます。その結果、医療機関側は、「安く買いたい」という発想となってしまうという環境にさらされるのです。
医療用医薬品では、医療現場から継続供給の要望のある臨床上不可欠な医薬品や、発売から長年経過しても医療現場から供給が求められ続けている医薬品を、「基礎的医薬品」して、薬価を下支えする仕組みが存在します。基礎的な処置や手術に使うものは、“下駄をはかせる”ような保険上の仕組みも、検討に値するかもしれません。
国家備蓄の検討、医療保険制度での目配せ、補助金の活用など、様々な仕組みを組み合わせ、非常事態にも必要な医療機器が医療現場に不足なく届くような仕組みの検討は必要でしょう。ぜひ、国家備蓄や、保険上の目配せについて、検討を始めてもらいたいものです。
【MEジャーナル 半田 良太】