2021.12.01
2022年度の診療報酬改定に向けた課題の一つに、スマートフォンにインストールして使用する「アプリケーション」や、「AI」(人工知能)などを使ったプログラム医療機器(SaMD=Software as a Medical Device)をどのように評価するのかということがありました。
厚生労働省は11月に入り、次期診療報酬改定に向けた審議で、「SaMDの保険適用の流れ」を整理し、その特性に見合った評価を提案しました。
かいつまんで申し上げると、「イノベーションの高いもの」には、高い評価(医師の技術料の新設や、特定保険医療材料への加算)で報い、「医師の診療をサポートするもの(より少ない医療従事者で、同等の質が確保できる場合)」は、「働き方改革」の視点を入れ、診療報酬点数の算定に求められる、一定の経験を持つ医療従事者の配置や、専門医などの要件を緩和するという方向性だと言えます。
●2010年に米国で登場したSaMD 国内も保険適用の製品が登場
SaMDを巡っては、2010年に、米WellDoc社の糖尿病管理用アプリ「BlueStar」が米国FDAの承認を取得したのを皮切りに、約10年で関係者の注目が高まっています。日本国内でも、16年に画像診断装置用プログラム「Join」(医師の配置要件の緩和)が、20年にニコチン依存症治療アプリ「CureApp」(技術料として評価)が、それぞれ保険適用され、日本初の成長産業としての期待感も高まりつつあります。
●規制改革会議が「SaMD普及に“資する”保険評価の明確化」を要求
政府の規制改革推進会議はこれまで、SaMDの実用化が諸外国よりも遅れていることを問題視し、先端医療機器等の開発・導入や、その産業化について、我が国が世界をリードしていけるよう、開発の立ち遅れ(いわゆるSaMDラグ)の解消に力点を置いて、厚労省に改善を求めてきました。
そして今年6月に閣議決定した、「規制改革実行計画」では、SaMDラグ解消とともに、「SaMDの“普及”に資する医療保険の評価の明確化」として、診療報酬上の評価の考え方を明確化し、21年3月までに検討を開始し、早期に結論を導き出すよう求めてきました。
こうした方針を受けて、厚労省も検討に着手し、これまでのSaMD実用化の実績を踏まえ、「診療報酬上の位置づけ」の明確化について、次期診療報酬改定の論点として示したのが、冒頭の提案です。
●SaMDの特性に精通した専門家も、保険点数の評価者に
厚労省が、SaMDの評価で明確化した主な項目は、①既存の技術と比べて、有効性・安全性が確認された場合、「上乗せ評価をする」②医師の働き方改革の視点を取り入れ、SaMDの使用で、より少ない人員で、同等の質が担保されるケースには、施設基準を緩和する③保険適用してから、有効性が示された場合には、評価引き上げを求める「チャレンジ申請」の対象とする④SaMDの特性に精通した専門家を、保険評価を検討する専門組織に所属させる-という点です。
●厚労省には、産業振興の観点から「思い切った決断」を期待
厚労省が示した論点について、診療報酬を検討する審議会では、賛同する声が相次いだが、「今回の整理は、あくまで既存ルールの明確化。個別事例を積み上げて、診療報酬上の評価・位置づけについて、適宜見直しをするような柔軟な対応をしていくことが必要」(日本医師会・長島公之常任理事)との指摘がありました。
SaMDについては、新たなアプローチの製品が相次いで登場し、患者の治療に貢献すると言った期待感は高まりますが、母国市場での評価体系がしっかりと固まり、高い評価が見込めるという予見性がなければ、開発を主導するベンチャー企業などは、海外市場に逃げ出す可能性があります。厚労省には、厳しい医療保険財源への配慮と、産業振興という観点から、難しいかじ取りとなりますが、産業の萌芽を摘み取ることがないように、お願いしたいものです。
【MEジャーナル 半田 良太】