2022.07.01
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)、ワクチン接種の筋肉注射用の注射針などが不足したことを、以前コラムでも取り上げました。
コロナウイルス発生時による混乱も落ち着き、コロナと共生する「ウィズ・コロナ」が意識されるようになると、テレワーク用のパソコンやネットワーク機器の増産、社会活動再開による自動車の生産再開などで「半導体の確保競争」という新たな問題も発生。それに追い打ちをかけるように、ロシアがウクライナに侵攻したことで、電子部品のメッキ、歯科用の銀歯などに用いる「パラジウム」の供給不足、航空、貨物などの国際物流への影響などが重なり、「医療機器の安定供給問題」は新たな局面に入ってきました。
●経済安全保障という新たな概念も
つまりコロナ流行時は、治療に必要な医療機器の不足に対応していたわけですが、今後は、生産効率を追求した過度な国際分業の是正、サプライチェーンの見直しなど、多面的な課題に対応しなければならなくなりました。さらに、ウクライナ問題を受け、特定の地域に偏った戦略物資の確保などの対策も不可欠。岸田政権では、目玉の一つとして位置付ける「経済安全保障」の観点からも、医療機器の安定供給への対策は待ったなしです。
●特定地域や希少資源に頼らない開発を支援
政府もこうした状況に、手をこまねいているわけではありません。医療機器の安定確保に向けて、(1)感染症や災害などの有事に必要で、「海外依存度の高い医療機器の開発促進(助成)」、(2)医療上重要な医療機器などを対象に、供給が途絶した場合の原因特定や対応を可能とするための「サプライチェーンの実態調査」―に乗り出しています。
(1)については、経済産業省が、AMED(日本医療研究開発機構)を通じて、予算補助する「医療機器等開発体制強靱化促進事業」として実施するもの。「感染症や災害の対応に必要となる医療機器」や、製品を構成する部品や消耗品の開発・改良も補助対象としており、「国内で生産できる能力を保持できる」よう、政府が後押しする考え。さらに、特定地域に依存し、希少性の高い資源や原材料の使用の低減につながる研究開発や製品の改良、代替品の開発なども支援することで、「海外依存度の高さ」「特定物資への依存」の解消も目論んでいます。
●原材料のサプライチェーンも把握へ
(2)については、厚生労働省は、「医薬品」「医療機器」、マスクやガーゼなどの「個人防護具」、「衛生材料」などのサプライチェーンを実態調査し、供給が途絶した場合の原因特定や対応策を検討します。人工呼吸器であれば、構成部品を可能な限り分解し、どの原材料、どの部品が、どこの生産国で作られているかを把握します。
厚労省は調査のイメージとしてサージカルマスクをあげているので、具体的にイメージしやすいように紹介します。日本企業が最終製品として販売する「サージカルマスク」について、原材料となる「不織布」「ノーズフィット」「ゴム紐」「フィルター」ごとに、生産国などを把握する考えです。
●「安全保障」と「コスト増」のバランスをどう考えるか
とくに国際分業が進んだのは、円高の影響を低く抑えることや、労働力の安い新興国などに工場を移すといった経済的な側面が背景にあるはずです。しかし昨今はインフレ抑制を目指す欧米と、緩和政策を継続する日本の金融政策の違いにより構造的な円安が進んでいます。為替は、将来的に逆に作用しコスト高要因にもなりえるので軽々な判断は難しいですが、一度立ち止まって、国内回帰の是非を検討してみてもよいかもしれません。
全てとは言いませんが、“必要不可欠な”医療機器であれば、仮に国内回帰によって将来的にコスト高になったとしても、私は国民の一人として、応分の負担を分け合うべきだと考えています。
【MEジャーナル 半田 良太】