2022.09.01
特定保険医療材料価格の毎年調査・改定(価格引き下げ)は、2023年度実施に関し、見送られる方向になりそうです。厚労省の審議会が7月20日、23年度改定に向けた「薬価調査の調査票案」を了承し、薬価の毎年調査・改定が継続的に実施されることが決まりましたが、特材の議論はされていないままです。仮に特材価格調査を実施するとしても、医療機器業界へのヒアリング等、販売・購入側の調査対象の設定、価格引き下げの対象をどうするかなど、今後数週間で決めなければならないことや、一定の合意を得なければならないことが山積しており、“時間切れ”で、見送りが決まったと言えそうです。
●実施予定の統計調査一覧に「特材調査」は見当たらず
厚生労働省はホームページ上に、「令和4年度実施予定の統計調査一覧」を公表しておりますが、その中に「医薬品価格調査」はあれど、「特材価格調査」という文言は見当たりません。つまり、厚労省としても毎年の特材価格調査・改定の検討・実施の意向はほとんどないということです。
●薬価の毎年調査・改定は「4大臣合意」が根拠
特材に先行する薬価の毎年調査・改定は、2016年に、「現在2年に1回行われている薬価調査に加え、その間の年においても、大手事業者等を対象に調査を行い、価格乖離の大きな品目について薬価改定を行う」ことで、時の官房長官、経済財政政策担当相、財務相、厚生労働相の4大臣で合意されたことが、実施の根拠となっています。
これを踏まえて、厚労省は21年度に、薬価の毎年調査・改定に踏み切り、2度目にあたる23年度の実施に向けて準備を進めているのです。そのため、今年4月の診療報酬改定に合わせて取りまとめた22年度の「薬価改定に係る薬価算定基準の見直しについて」でも、「診療報酬改定がない年の薬価改定の在り方については、引き続き検討する」と明記しています。
一方、特材はというと、実施に向けた根拠となる4大臣合意には「薬価調査」のみが言及され、いわゆる“霞が関文学”で用いられる薬価調査“等”という、「特材も含む」というニュアンスは排除されています。そのため厚労省は、22年度の「保険医療材料制度の見直しについて」で、毎年調査・改定について、一切言及していないのです。
●特材の毎年調査・改定には「コミットメントなし」
中医協の議論でも、以前は一部の支払側委員から、「薬価制度と特材制度の平仄合わせ」を強弁するケースが散見されていましたが、現在はこうした発言は鳴りを潜めています。コロナの流行もあり、そこに眼が届いていないとも言えそうです。そうした中、厚労省は、特材の毎年調査・改定は、4大臣合意、制度改革の工程表にも入っていないという認識で、議論の俎上に載っていないというのが、厚労省のスタンスと言えそうです。
●触らぬ神にたたりなし?
厚労省は、「触らぬ神に祟りなし」という姿勢を貫いているように見えます。私も、特材価格を毎年調べ、連続的に価格を引き下げる行為は、製品の安定供給にも支障をきたし、成長産業を目指す足かせとなるのではと、負の側面が強いと感じている一人。そうした意味で、厚労省の対応には、消極的ですが賛成しています。
消極的に賛成としたのは、「嵐が過ぎるのを待つ」と感じたから。特材は、公定価格を「複数の機能ごと」にまとめて設定するため、同業他社の競合品が安売り攻勢を仕掛けると、公定価格が引き下げられ、結果として自社品まで価格が引き下げられるという厳しい制度を敷いています。そうした制度に上乗せして、現在2年に1回の価格改定を、毎年にすると、安定供給に支障をきたすだけでなく、これから経済けん引役として期待する、医療機器産業へのダメージも計り知れないと考えるのです。厚労省は本来、こうした状況を、政府や、審議会の委員に理解してもらうべきだと考えるので、消極的賛成としました。
しかし、高齢化に伴い、社会保険財源の枯渇が叫ばれる中、医薬品や医療機器に対する歳出抑制圧力は強まっており、「毎年は特材価格改定をすべきでない」と声高に叫ぶことは、もしかしたら、「特材でもさらに歳出抑制できる」と判断され、藪蛇になる可能性も否定できないかもしれません。消極的賛成とは申しましたが、どういった対応が正解なのか、私も正直、分からなくなってきました。
【MEジャーナル 半田 良太】