2022.10.03
厚生労働省の審議会が8月、鎮静(意識レベルを低下させる)薬、鎮痛(痛みをコントロールする)薬、筋弛緩(筋肉を緩める)薬の3剤の投与量を自動制御する「ロボット麻酔用シリンジポンプ制御ソフトウェア」(仮)の製造販売承認を了承しました。
麻酔投与量を自動調節するソフトウェアは国内初登場となります。これにより、医師数が不足し、過酷な勤務環境におかれている麻酔科医のストレスが軽減され、呼吸管理など複雑な術中全身管理に集中することができるようになると期待されています。今後、臨床現場への登場が待たれます。なお、審査の過程で販売名に「ロボット」と表現することは不適切との指摘を受けており、製造販売元の日本光電工業と厚労省とで調整されることになるそうです。
●麻酔科医は術中全身管理に専念できる
「ロボット麻酔用シリンジポンプ制御ソフトウェア」は、シリンジポンプと併用し、鎮静薬「プロポフォール」、鎮痛薬「レミフェンタニル塩酸塩」、筋弛緩薬「ロクロニウム臭化物」の投与量を自動的に調整し、静脈麻酔薬による全静脈麻酔を支援するソフトウェアとなります。
麻酔中の鎮静度を評価する「バイスペクトラル・インデックス」と、筋弛緩状態をデータ化した「TOF値」に基づいて、コンピューターがプログラムに従って、麻酔薬の投与量(濃度)を自動調整します。
●理論上は全身麻酔の約5割に使用可能
ソフトウェアの対象は、成人が対象となります。具体的には、アメリカ麻酔科学会の全身状態分類(ASA-PS分類、6段階評価)で、「常に生命を脅かす重度の全身疾患を有する患者」以上の「重症者」が対象となります。ただ、低体温療法での手術や、心臓血管外科の手術、妊娠中の患者は対象外です。
厚生労働省によると、ソフトウェアは理論上、全身麻酔手術の約5割で使うことができるそうですが、「申請者の販売戦略や計画もあるため、いきなり約半分の全身麻酔に使われることにはならない」といいます。
●重篤な有害事象や不具合報告は「ゼロ」
執刀開始から縫合終了までの時間に鎮静、鎮痛、筋弛緩の効果がいずれも適切に維持されたかを調べる、国内5施設で実施した臨床試験では、麻酔科医がソフトウェアを使用した群と、従来どおりの麻酔管理を実施した手動群を比較。ソフトウェア使用群は、手動群に対して「非劣勢」(劣っていないこと)が確認されました。ソフトウェアとの因果関係が否定できない、重篤な有害事象、製品の不具合の報告はなく、安全性が立証されています。
●今後気になる診療報酬での評価の行方は
製造販売が正式に認められるのは、通常であれば審議会から1カ月程度とされており、今後は保険診療での扱いがどのようになるのかに、注目が集まります。プログラム医療機器とも呼ばれるソフトウェアは、2022年度の診療報酬改定で、「評価の明確化」が図られました。
今回は、麻酔科医の負担軽減を狙ったソフトウェアですから、治療などに用いる特定保険医療材料としてではなく、医師の技術として評価されることになるでしょう。その際、新たに医師の技術料(高い点数)が設定されるかどうかはよくわかりませんが、厚労省は22年度改定で、医師の働き方改革に貢献するソフトウェアにも言及。「例えば、より少ない医療従事者で同等の質が確保できる場合には施設基準等に反映することもありうる」との方針を明確に打ち出していることから、ここが評価のポイントになることは間違いなさそうです。
【MEジャーナル 半田 良太】