2023.01.04
急激な為替変動、新型コロナウイルス感染症による物流の混乱、ウクライナ問題によるエネルギーコストの上昇という“3重苦”による物価高の影響が、医療機器の安定供給などに深刻な影響を及ぼしています。
国内の医療機器業界は、医療材料や、設置型の医療機器などを構成する「樹脂部材」「電気電子部品」「金属材料」の価格高騰やひっ迫を訴えています。経済的なダメージとして、米国の国内法人業界団体の会員企業は、物価高と為替の影響で年間3300億円のコスト増にあえぎ、国立大学病院長会議の44病院は、医療材料の相次ぐ値上げ要請で、年間約206億円分の負担増を見込むなど、頭を悩ませています。
●国内企業へのアンケート 102社中70社程度が安定供給に悪影響
日本医療機器産業連合会が、会員企業(回答数102件)に対して11月4日までに実施したアンケートの結果、
約7割が、昨今の経済情勢の影響で、製品の安定供給への「悪影響を受けている」「懸念している」としています。とくに、シリコーンやポリプロピレンなどの「樹脂材料」、半導体やコネクタなどの「電気電子部品」、ステンレスやアルミといった「金属部品」の価格高騰や、部材確保に苦慮していることを明らかにしました。
●輸入品も多い米国企業 年3300億円のコスト増と試算
さらに米国医療機器・IVD工業会は、物価高・為替変動の影響で、会員企業の年間損失額が3300億円にのぼるとの試算を公表しました。1ドル110円の2021年の販売価格と、1ドル140円の23年推定値とを比較し、輸入原価と一般販売管理費が利益を食いつぶし、損失につながるとした。コスト増のイメージとして、空輸便で「2倍~4倍」、海上輸送便で「2倍~5倍」となるそうです。
●医療材料の値上げが前年比約14%増の206億円 国立大学病院が悲鳴
一方、医療機器の購入サイドの状況はどうでしょうか。国立大学病院長会議が12月7日、光熱費・物価高騰などの影響が医療材料にも及んでいるとし、44病院合計で、年間約206億円分の負担増(前年度比)になるとの試算を発表しました。21年の医療材料の購入金額は計1486億円だといい、22年は単純計算で約13.9%もの負担増となります。
とくに国立大学病院は、手術など、医師の技術料に包括されて、別途保険請求ができない医療材料の値上げにより、病院経営に深刻なダメージを与えていると訴えています。全ての国立大学病院と取引する医療材料メーカー
930社のうち、533社が値上げを表明していることも、病院長会議が10月に実施した調査から分かっています。
●医療保険制度下では物価高の影響を患者に転嫁できない仕組み
業界団体と医療現場が声をそろえるのは、保険医療の中では、コスト増を価格に転嫁できない、しづらいということです。メーカー側からすると、公定価格が決まっている特定保険医療材料にも値上げの限界がありますし、医療機関側からすると、手術料などが公定価格として定められている中で、手術に使う医療材料の値上げを、患者に一部負担してもらうことは不可能です。
そうした中、医療機器業界は、政府への要望として、医療機器の部材を適正な価格で安定確保できるよう支援を呼び掛けたほか、診療報酬上での対応を求めています。さらに、医療上必要不可欠な保険医療材料の価格維持制度の創設や、医療機関が、地方創生臨時交付金を活用しやすい環境の整備なども求めています。
●医療上必要性の高い薬の薬価は23年4月に全て引き上げ……
一方、医薬品については2023年4月から、医療上不可欠で不採算に陥っている1100品目について、公定価格である薬価を引き上げることが決まりました。この対応は、「薬価の毎年改定」とあわせて実施したものです。当然、
2年に1回の改定となっている、診療報酬、特定保険医療材料価格の値上げにはつながりません。そもそも公定価格がついていない医療材料や医療機器とも無関係です。
国立大学病院長会議は、医療材料の負担増について、「現在は調査の結果、下半期の状況が相当厳しそうだというデータを集めたところ。医療材料の値上げに対し、どういった支援が必要なのか、今後とも検討していきたい」とコメントしています。医薬品同様、医療上不可欠で不採算になっている特材や、そもそも希望小売価格が安く、採算ぎりぎりの医療材料は存在するはずです。医療材料は公定価格こそついていませんが、保険診療で使われているわけですから、医療材料の値上げ分を医療費に価格転嫁できない医療機関の首を真綿で占めるようなものです。財政が厳しい中、全てを救済するわけにはいかないでしょうが、24年4月まで手をこまねいて、何もしないままで良いとも思いません。
【MEジャーナル 半田 良太】