2023.11.01
医療機器流通業者が“悲願”としていた、「医療機器の流通改善に関する懇談会」(厚生労働省)を約7年ぶりに再開しました。
来年4月から、トラックドライバーの残業規制が始まる、いわゆる“流通の2024年問題”が目前に迫っていることへの対応を検討するためだそうです。トラックドライバーの残業規制でとくに懸念されるのは、①「納品回数の減少」②製品を1日で運びきることができない「物流リードタイムの長期化」③荷替えして複数台で配送することや、ドライバー確保などの賃金増による「物流コストの増加」が懸念されています。近々に厚労省が対策をまとめ、流通改善懇談会を開催して討議するとのことでした。
●トラックドライバーの残業規制による「24年問題」への対応を議論
新型コロナウイルスの流行、ロシアのウクライナへの侵攻、円安の進行など、コスト高の要因が重なり、モノの価格が高騰していることはご承知の通りです。例えば食料品。ここ数年、複数回にわたってコスト増分を値上げしていますが(消費者の買い控えにつながる可能性もあるので、そう簡単でないことは承知していますが)、医療機器でもとくに手術などに用いる特定保険医療材料は、公定価格が定められているため、企業側がコスト増を理由に価格転嫁することはできないことから、医療機器メーカー、流通業者、医療機関など医療機器サプライチェーンの各段階で、利益を減らして対応しています。
●対応策は、「在庫積み増し」や「注文発注時間の前倒し」など
今回の流通改善懇談会の席で、業界側から示された対応策を確認します。流通業者に対しては、「納品回数の減少」には、在庫の積み増し、「物流リードタイムの長期化」には、物流拠点の増設や共同配送の導入などを、それぞれ求めています。医療機関に対しては、同じく在庫の積み増し、注文の締め切り時間の前倒し(15時まで)や、注文の8割を占める電話やFAXからEDI(電子商取引)へのシフト、このほか注文窓口の一元化(院内での「医療材料管理室」の新設)などが、24年問題への根本的な解決につながるとして、理解と力添えを求めています。
●長年の課題だった「流通↔医療機関」の「電子商取引化」
これに対し医療機関側の委員は、現時点でも廊下にまで製品在庫があふれているとして、「在庫積み増しは困難」と回答。注文の締め切り時間前倒しには、急変などの心配がない予定手術では対応可能とするも、急変や事故対応などの「緊急手術では困難」との見方を示しました。過去10年以上何度も、「改善すべき課題」とされてきたEDI化については、政府が音頭を取る「医療DX」の流れの中で進めていくべき課題との見方を示しました。
●コスト増はだれが負担するのか? 診療報酬増を求める声
課題である「コスト増」への対応について。医療機関側の委員は、次期診療報酬改定で、日本医師会などを中心に、人件費増への対応を求めていることに、物流費増分も含まれるとの考え方を示し、昨今のコスト増分を数字で示し、財務省と折衝すべきとの立場を鮮明にしました。つまり、特定保険医療材料価格や、関連する医師の手技料や技術料といった診療報酬点数の引き上げで対応すべきとしています。公定価格が定められていない医療材料については、入院基本料などを上げることで対応すべきとのスタンスを示し、どういったケースでどのくらいのコストが増えているのか、業界側に更なるデータの提示を求めました。
●24年問題は「メーカーから流通業者への配送がメイン」
同日の流通改善懇談会では、有識者のシンクタンクに在籍する委員から、24年問題は、トラックドライバーに配送を頼る「医療機器メーカーから流通業者への配送」がメインではないかとの指摘があがり、とくに診療報酬改定で引き上げを求めるのであれば、「論点を明確にすべき」とのアドバイスがありました。確かに、流通業者から医療機関への配送は、トラックドライバーとは関係のない社用車・自家用車がメインのため、この指摘は正鵠を射ていますし、議論が多岐にわたったために焦点がぼやけてしまった印象も否定できません。データをしっかりと集め、厳しいでしょうが、財務省と折衝してもらいたいものです。
●流通改善懇談会は定期的な開催が必要ではないか
さて、上述の指摘の通り、EDI化や注文窓口の一元化は24年問題との関係は薄く、流通業者と医療機関の当事者間で進めるべき課題のはず。ただ何か根源的な問題があるようで、一向に進みません。医療という単純な民間同士の取引ではないことから、長年問題が解決しなかったのであれば、流通改善懇談会で議論してもよいはずです。とくにEDI化については、以前の会合で、医療機器メーカーと流通業者との動向をチェックしていたわけですから、そうした観点から、行政として会議を開かなかったことにも、違和感があります。流通改善懇談会は設置から15年でわずか8回、前回開催も7年前です。医療機器流通には、様々な課題が山積していると考える私からすると、最低でも年1回の定期的な開催は必要ではないかと考えます。
また冒頭で、流通業者「悲願」の開催と表現しましたが、今回の懇談会での自由討論では質問者や座長が促さない限り、流通業界が主体的に発言することが皆無だったことも気になりました。医療機関とのパワーバランスもあるので、慎重に振る舞うのはある意味やむを得ない部分はあると理解しています。ただ会議はたっぷり2時間確保されている中、1時間20分弱で終了。最後に座長から委員全員に、自由な発言を促されていたのに、思いを持ったはずの流通業界は発言しませんでした。
そして懇談会終了後に、流通業界の方が行政や委員の方と歓談している姿をみると、「確か悲願だったはずだが本当に悲願だったのか」との懸念が頭をよぎったことも事実です。同日は、24年問題以外でも、医療機関での在庫管理などにおける有償契約に向けた業界ガイドライン案を報告した重要な会議でもありました。一言、「今後も定期的に会合を開いて欲しい」など、議事録に残すだけでも印象は違ったような気がします。
【MEジャーナル 半田 良太】