2024.04.01
患者負担の少ない「低侵襲治療」に貢献する医療材料が、そのポテンシャル通りに適正な評価を相次いで受けることになりました。外科手術をせず、皮膚表面から血管内に留置した細い管を介して病変部を治療する「血管内カテーテル治療」で、従来の太ももからではなく、手首の血管から治療できるよう工夫した製品群に、高い公定価格が設定されることになりました。
●2024年 “新旧”2製品が適正な評価を得る
2024年に、患者負担の軽減につながるとして、適正な評価を受ける医療材料は2製品。まず新発売の医療材料
1製品が3月に、すでに発売されている医療材料1製品が6月に、高い公定価格で評価されることになります。
●脳血管治療で出血性合併症が18分の1に低減
先陣を切るのは、日本メドトロニックの新製品「Rist ラディアルアクセス ガイディングカテーテル」。脳卒中などの脳血管治療で、手首の血管からのアプローチで治療機器を挿入するために用いるもので、診療報酬改定を目前に控えた今年3月から、すでに保険適用が開始されています。出血性の合併症の発生率は「Rist」で0.3%。太ももの血管からアプローチした場合の5.57%と比べて、良好な成績であることが確認されました。つまり、合併症のリスクが18分の1に低減することを意味します。これにより、標準型の製品が2万1800円であるのに対し、「Rist」は6万3200円と、約3倍弱の価格で評価されることになります。
●手首からの末梢血管ステント「代替品なし」と評価引き上げへ
もう一つの製品は、テルモの「ミサゴ」。手首からのアプローチで狭くなった末梢動脈に血管拡張用ステントを留置するためのもので、「ステント」と「デリバリーカテーテル」で構成されています。すでに医療保険下で流通しているものですが、太ももからのアプローチの製品と、同じ評価にとどまっていました。
今回「ミサゴ」も大幅に公定価格が引き上げられることになりますが、「Rist」のように、出血性の合併症減少などが評価されたわけではありません。物価高などを背景に、製品を継続して供給することが難しいことから、メーカー側が公定価格のアップを訴え出た「不採算品再算定」というスキームを使って実現しました。
厚生労働省はテルモの訴えに対し、手首からのアプローチが必要な患者に対して代替品がないと判断。安定供給を続けてもらうため、大幅な価格引き上げを決めました。具体的には、これまで16万円で評価されていたものが、6月からは23万4000円と、約7万円アップとなります。
●二律背反の課題をクリア
手首からのアプローチは、太ももと比べて、細く屈曲した血管を経由しなければなりません。既存の製品を改良して、一定の硬度を保ちながらも柔軟性に富むという、二律背反する課題をクリアしなければなりませんでした。これら2つの製品は、改良・改善を繰り返し、この課題をクリアし、出血性の合併症を減らし、患者と医療費負担の軽減につながると認められたといっても過言ではありません。
●保険で高く評価されるまでの長い道のり
手首からのアプローチは、実は四半世紀ほど前から開発されてきたようですが、ようやくその有効性が経済的に評価されることになった形です。医療保険財政が厳しいため、エビデンスを示すことができなければ、高い評価を得られないというスキームはやむを得ないものですが、評価されるまでの道のりがこれほど長いということを、国民の皆さんにももっと知ってもらいたいです。
●地道な改良・改善の繰り返しがイノベーションを生む
イノベーションとは、これまで対応できなかった患者に治療の道を切り開くだけではなく、患者の負担や、医療費の削減につながるテクノロジーも該当するはず。こうしたテクノロジーを開発、市場投入する企業の努力には、国民の一人として敬意を表したいと思いますし、経済的にも報われるべきだと思います。
【MEジャーナル 半田 良太】