2024.03.01
ロシアとウクライナの戦争や、新型コロナウイルス感染症の影響などで、医療機器に使う素材や部材確保が十分でない上に、それらの価格高騰が続いています。その結果、最悪のケースとして、医療機器メーカーが、医療現場で必要とされる製品を十分に供給しきれなくなることも想定しておかねばならず、厚生労働省も医療機器の安定供給を確保するための対策に乗り出しました。
医療現場で、医療機器の供給が滞れば、最悪、手術ができなくなってしまう可能性も否定できません。医療という公益性の高い分野で、製品を取り扱う事から、ライバルでもある民間企業同士が手を携えて対応することで、医療への影響を最小限にとどめるスキームが構築されることになりました。
●代替品の増産要請 メーカー同士の協力・連携が原則
厚労省がまとめた安定供給確保のスキームを見ると、保険適用されている医療機器に供給不安・欠品が生じた場合、当該製品を取り扱う医療機器メーカーに対し、速やかに厚生労働省への報告を求めます。そのうえで、医療機器メーカーは、厚労省から指示を仰ぎながら、対策を主導していくこととなります。
厚労省の指示を受けた医療機器メーカーは、既に保険適用されている、代替品を扱う競合会社に、増産協力を求めることになります。代替品が複数存在する場合には、増産協力を一部にとどめるかどうか、増産台数を指定するかどうかなどの判断を、欠品が生じた医療機器メーカーに委ねます。
●医療機関・学会などには丁寧な説明を
欠品などの影響を最小限に抑えるため、医療機器メーカー間の連絡を密にするほか、ユーザー側の医療機関や関係学会への情報提供もきめ細やかに実施するとしています。
とくに医療機関や学会に対しては、欠品が懸念される製品について、平常時の生産量と比較して、何割程度の供給しかできないのかといった現状を周知し、その原因や発生時期も併せた情報提供を、医療機器メーカーサイドに要請します。
そのうえで、代替品の製品メーカーや製品名、代替品として選定した理由・根拠などを提示するとともに、欠品が実際に生じると想定される時期、供給不安が解消されるメドといった、今後の見通しを伝えるよう呼び掛けます。
●業界団体の側面サポートにも期待
必要に応じて医療機器メーカー間の橋渡し役として、業界団体にも協力を仰ぐことも視野に入れています。メーカー間の調整役としての役割を果たしてもらうほか、代替品を製造するメーカーを紹介し、増産協力を呼び掛けるなど、業界団体にしかできない側面支援に期待感を示しています。
●緊急時などは厚労省が対策を主導
安定供給確保のスキームは、民間企業の協力・連携を原則としておりますが、緊急性・重大性がある場合には、厚労省が主導することも。厚労省が、代替品の在庫状況・生産状況などの情報を収集し、代替品メーカーとの調整に乗り出す可能性も否定せず、万全の体制を敷きます。
●国家備蓄などの必要性、平時に戻りつつある今こそ議論を
新型コロナウイルス感染症が蔓延した当時、供給が足りなくなった人工呼吸器の増産に、大量生産のノウハウを持つトヨタ自動車やソニーグループなどがサポート役を買って出ました。少量多品種生産という医療機器メーカーを、業種を超えてサポートすることで、パンデミックという危機的な状況を乗り越えることができました。
こうした経験を奇貨とし、平時から医療機器の安定供給を考え、必要なスキームを整えておくことは、生命関連製品を扱う業界の宿命ともいえます。新型コロナのパンデミックが収束した今だからこそ、代替品の増産のスキームに加え、治療に必要な医療機器の国家備蓄の是非なども含め、検討を進めるべきでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】